JAPANESE ENGLISH INSTITUTEとは

「“ジャパニーズ・イングリッシュ”というのは、どうですか?」

私の長い長い話をじっと聞いていた角川さんが、急に口をひらいた。

「えっ?」

「お話をうかがっていると、成瀬さんはようするに、たんなる英米人の物まねではない日本人としての英語を目指していきたいということですよね。それって、“ジャパニーズ・イングリッシュ”といって、いいんじゃないですか?」

「ええ、まあ」

「たしかにジャパニーズ・イングリッシュって、あまりよい意味では使われていませんよね。でもだからこそインパクトがあると思うんですよ。日本人なんだからジャパニーズ・イングリッシュでいいじゃないか、なにが悪いんだ。それよりも、ジャパニーズ・イングリッシュをもっとよいものにしていくことが大事なんじゃないかって、はっきり主張するんですよ。そうすることが、このサイトの一番の持ち味になると思います」

角川さんは、このサイトの制作をお願いしている「ふぶき」の社長である。ウェブサイトをつくりたいので制作会社を知らないかと友人にたずねたところ、角川さんが経営する「ふぶき」を紹介してくれた。「ちょっと変わったひとですよ」と、友人は最後に小声で付け加えた。

サイト制作については私も少し経験があるので、最初の打ち合わせには、自分なりのサイトマップをつくっていった。ところが、角川さんは私のつくったサイトマップなどまったく相手にしない。

「とにかく、成瀬さんが考えていることをすべてきかせてください」と、角川さんはいった。

それから数時間、私は自分の考えを話しつづけた。角川さんは、その話をじっと聞いていた。そうして出てきたサイト名が、“ジャパニーズ・イングリッシュ・ジャーナル”だったのである。

角川さんによると、サイトの名前はサイトの個性そのものである。だから、サイトのオーナーが伝えたいものをストレートに表すものでなければならない。それを見つけだすのがサイト制作者の仕事であり、私の場合には、それが“ジャパニーズ・イングリッシュ”だというのである。

「どうですか、成瀬さん」

「ええ、そうですねえ……」

正直なところ、私は少し迷っていた。この数十年にわたって、私がずっと目指してきたのは、英米人の物まねではない日本人としての英語の確立である。ウェブサイトをつくりたいと思ったのも、そうした私の英語学習に対する考え方や、これまでに蓄積してきた日本人としての英語学習のノウハウを多くの人に知ってもらい、実際に利用してもらいたいからだ。その意味で、角川さんのネーミングはまさに核心をついている。

だがその一方で、私のように英語を生業とする人間がジャパニーズ・イングリッシュを表看板に掲げることは、いわば自殺行為にも近い。ネイティブ・イングリッシュこそが英語であってジャパニーズ・イングリッシュなどニセモノにすぎないという大前提のもとに、現代の英語産業は成り立っているからである。「ネイティブはそんなふうにはいいません」「それではネイティブには通用しません」――表現方法はさまざまだが、ようするにこうしたたぐいのセリフを発することで、私を含めた英語屋たちは日々のメシを食っているのである。

そんななかで、ジャパニーズ・イングリッシュを目指すのだとサイトで真正面から公言するならば、ひょっとすると多くの仕事や顧客を失ってしまうことになるかもしれない。角川さんの提案を受け入れるには、それでもかまわないという強い気持ちが必要なのである。だが、はたしてそこまでの覚悟が自分のなかに本当にあるのか……。

「まあ、もう少し考えてみるのも、いいのかもしれませんが」

私の表情をうかがいながら、角川さんがつぶやいた。だが私はいった。「それでいきましょう。ジャパニーズ・イングリッシュ。いいですねえ」

このとき私は、ジャパニーズ・イングリッシュを自分の表看板にすると心に決めた。よし、これからはジャパニーズ・イングリッシュでいこう。