成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

でたらめ翻訳の「論より証拠」

2011年8月3日

でたらめな翻訳書の例がみつかった。北村富弘さんに教えていただいたものである。北村さん、ありがとうございます。

その本は、『アインシュタイン その生涯と宇宙 下』(ウォルター アイザックソン(著), 二間瀬敏史(監訳)(その他), 関 宗蔵(翻訳), 松田 卓也(翻訳), 松浦 俊輔 (翻訳) 、武田ランダムハウスジャパン)。

この本のアマゾンのレビューで訳者の一人(松田卓也さん)が、おそるべき内実を暴露してしまったのである。どうやら一部の翻訳に機械翻訳を利用してしまったらしいのだ。レビューの一部をご紹介する。

「本書の翻訳は数年前に監修者の二間瀬さんから依頼されました。私は自分の分担を2010年7月に終えました。翻訳権が9月に終了するので急ぐようにとのことでした。ところがいっこうに本書は出版されず、今年6月になり、いきなりランダムハウスジャパンから、本書が送られてきました。そして13章を読んだ私は驚愕しました。 私は監修者の二間瀬さんに「いったい誰がこれを訳して、誰が監修して、誰が出版を許可したのか」と聞きました。二間瀬さんは運悪くドイツ滞在中で、本書を手にしていませんでしたので、私は驚愕の誤訳、珍訳を彼に送りました。とくに「ボルンの妻ヘートヴィヒに最大限にしてください」は、あきれてものもいえませんでした。Max BornのMaxを動詞と誤解しているのです。「プランクはいすにいた。」なんですかこれは。原文を読むと、プランクは議長を務めたということだと思います。これらは明らかに、人間の訳したものではなく、機械翻訳です。」

いや、これはものすごい。でたらめ訳には慣れているわたしでさえも、さすがにびっくり仰天である。学術出版物に機械翻訳。想像を絶している。このレビューには、現時点で2,405 人中の2,387人の方が「このレビューが参考になった」と投票している。さもありなん。この本、できれば手に入れたいのだが、すでに回収済みとのこと。残念。

さらに、このレビューにはコメントが21件もついていて、そのなかで、他のでたらめ翻訳のケースも指摘されている。以下のとおりだ。

「この程度の誤訳は時々見ます。私はEdgar Schein のファンですが、邦訳された『人を助けるとはどういうことか』と『プロセス・コンサルテーション』はどちらも学生の、それもかなり出来の悪い人がしぶしぶ訳したような、とんでもない翻訳でした。」

なおこのレビュアーからは「翻訳者の方に申し訳ないのですが、翻訳に携わる方の仕事の質もかなり低いように思います。それが実力なのか、賃金が安いから手を抜くのか、いずれにせよ、翻訳者の報酬を引き上げ、実力があり丁寧な翻訳の出来る人を業界に招かない限り、ますます翻訳書を読む人は減るでしょう。」などとも書かれてしまった。うーん、いい翻訳者、隠れたところにはけっこういるんですけど、なかなか仕事がこないんですよ。このレビュアーさんのおっしゃる「二社以上に競わせる「競訳」が実現すれば、誤訳をする出版社、翻訳者、監修者は淘汰されるのではないかと思います。」というのはまさに正論である。はやくそうなってほしいものだ。

いずれにしろ、こうした状況がいまの翻訳出版の実情であるようだ。どげんかせんと、いかんですね。

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