成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

ジャズと英語

2010年4月28日

昨日、今東紗理さんのジャズライブにいった。今東さんはフリーアナウンサーをされながらジャズシンガーとして活動をされている。今回は今東さんと中嶋錠二さんというピアニストの方を中心にしたステージで、スタンダードジャズをたっぷりと聞かせていただいた。歌、ピアノともにまことに素晴らしく、とても贅沢な夜であった。近日中に今東さんの次のライブもあるので、ご興味のある方は今東さんのサイト(http://angelvoice.jp/)をご覧いただきたい。

今回は今東さんなどプロシンガーのほか、ジャズボーカルをいま勉強中の方も何人かステージに立たれた。それぞれに魅力的で十分に楽しめた。、翻訳という仕事は歌手や俳優にとても近い。まず楽譜/台本/原文があり、それを十分に理解し、そして自分なりに表現していく。その意味で演奏者と演技者と翻訳者は同義語である。したがって今回ステージに立たれたジャズ学習者の方々は翻訳学習者とまさに同じ立場にあるといえよう。

そういう観点から歌を聴いていると、突如として教師根性がむくむくとアタマをもたげた。いつもの悪いクセである。

根っからの言葉人間なものだから、とにかく言葉が気になる。英語でジャズを歌うからには、なによりもまず、それは英語でなければならない。では英語で歌うとはどういうことか。

第一に、歌詞の世界を十分に理解しなければならない。たんなる表面的な意味の理解のことではない。歌詞にこめられた真の「思い」を深く捉え、その世界をともに生きなければならない。それができていなければ、それは歌ではなくお経になってしまう。

第二に、英語を英語としてきちんと表現できなければならない。それにはまず英語を英語として発音しなければならない。発音という技術がきちんとできないかぎり、いくら思いをこめても、その思いはうまくは伝わらない。今東さんなどプロの方々は別格として、いまジャズの勉強中の方々はこの点が弱い。

間違えないでほしいのだが、いわゆる「らしい」発音を求めているのではない。発音を英語らしくしようと、わざとくずれた発音をしたり巻き舌を使ったりするケースもあるようだが、最悪の所業といってよい。そうではなく、英語の音としての基本を守るということである。

たとえば、昨日歌われた一人の方の英語の発音の弱点のひとつは、一音節の基本単語が二音節になってしまうことである。ifはi-fuに、itはi-toに、atはa-toになってしまっている。そのため、本来十六分音符にきっちりのるべきifやitの音がどうしてもはみ出てしまって、それが歌全体のリズムをこわしてしまっている。

これはおそらく、英語には強母音と弱母音があること、tやfの音は状況によってさまざまに変化することなどの英語の音としての特質を知らないからではないかと思われる。そのほかにも、母音のuやiが日本語の「う」や「い」になってしまっていること、特定の子音連続や半母音としてのlの音に難点があることなど、いくつか英語発音の基本的な問題がある。

逆にいえば、こうした基本さえきっちりとクリアすれば、いまでも十分に魅力的な彼女の歌声は、さらに魅力的なものになることだろう。

ちなみにジャズと英語学習との縁はとても深い。たとえば米国にはCarolyn GrahamのJazz Chantsシリーズという有名な教材がある。日本でもジャズのスタンダードナンバーを英語教材として使っている英語教師は数多い。かくいう私も高校の英語教師時代にはジャズの有名なナンバーをみんなでよく授業中に歌っていたものだ。これからはじめる英語教室でもぜひ積極的に取り入れていきたいと思う。

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