成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

ユニクロ英語

2010年7月22日

<ここから引用>
(毎日新聞 2010年6月24日 東京朝刊)
ユニクロ:幹部会議や文書、英語公用化--12年から

カジュアル衣料のユニクロを展開するファーストリテイリングは23日、12年3月から社内の公用語を英語にする方針を明らかにした。日本のオフィスも含めて、幹部による会議や文書は基本的に英語とする。海外展開を加速させており、言語の共通化が不可欠と判断した。
柳井正会長兼社長は毎日新聞の取材に「日本の会社が世界企業として生き残るため」と語った。導入までに「海外で業務ができる最低限の水準」(柳井会長)として、国際英語能力テスト「TOEIC」で700点以上の取得を求める。幹部社員の賃金体系も世界で統一し、店長クラスの海外異動を日常化させる。新卒採用も外国人を増やし、11年入社は600人の半数を外国人にする計画だ。
日本企業が英語を公用語にしたケースは、日産自動車、楽天など極めて限られている。
<引用おわり>

いかにも柳井らしい、計算のよく行き届いた発言である。突拍子もないが時代の先端をゆくアイデアをポンとぶち上げてマスコミの関心を集め、同時に社内の士気と緊張感も高めていく。うまくいかないとなれば、ただちに撤回して方向転換をする。野菜をつくるといいだしたときのことを思い出す。創業経営者であるからこそ使える巧妙な経営戦術である。今回も、うまくいかなくても損はない、メリットはすでに十分に享受したと考えているに違いない。

ホンダの伊東孝紳社長がいみじくも述べているように、日本国内で日本人同士が英語で仕事をするというのは馬鹿げたことである。そもそも「日本のオフィスも含めて、幹部による会議や文書は基本的に英語とする」といいながらTOEIC700点を目標にすること自体、無理筋もいいところである。TOEIC700点程度の英語力でグローバルビジネスがこなせるはずがない。実際のジョブは英会話学校のオママゴトとは違う。もし本当にユニクロが12年3月から社内の公用語を英語にすれば、すべての業務が大混乱に陥るはずだ。

だが、そのことを十分にわきまえつつ、しかしここで敢えて提案したいのは、公用語を英語にするという今回のユニクロのプロジェクトは、ぜひ本当に実現してもらいたいということである。12年3月からは無理だろうが、5年の準備期間があれば、やり方次第では決して不可能ではないと私は考える。

そのやり方とは何か。マスターすべき英語を限定してしまうのである。

英語を社内公用語にするといった議論のなかで欠落しているのは、「英語」とはどのようなものを指しているのかということである。以下、ユニクロに必要な「英語」とは何かを考えてみよう。

第一に、ユニクロに必要な英語は「国際語としての英語(EIL)」である。「母語としての英語(ENL)」でも「第二言語としての英語(ESL)」でもない。したがってアメリカ人のように英語が使える必要はなく、またシンガポール人のように英語が使える必要もない。英語に対するこのマインドセットの切り替えが重要である。

第二に、ユニクロの社内英語はかなりの部分でパターン化ができる。ユニクロは銀行でも自動車メーカーでもなく、アパレルの製造販売会社である。であれば、それにふさわしい具体的な英語表現パターンがある。それをピックアップして精選し、機能や状況別の表現集をつくって、社員全員で共有するのである。

第三は、パターン化に収まらない表現は、原則的に禁止することだ。社内公用語を英語にするのは英語で洗練されたコミュニケーションをとるためではない。ユニクロ社員すべてのあいだでの意思疎通をはかるためである。シンプルイズベストである。

第四は、上記のことを踏まえたうえで、ユニクロ独自の翻訳・通訳システムを開発しておくことである。それが一種のセーフティネットとなり、逆に英語でのコミュニケーションを円滑化させるはずだ。

おわかりのようにこれは英語そのものというよりも、英語をベースにした「ユニクロ英語」である。もしユニクロでこれが実現すれば「セブンイレブン英語」「アサヒビール英語」など他の日本企業でも同じような試みがなされるに違いない。、それこそが私のいうJapanese Englishの世界である。

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