成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

リハビリと外国語学習

2010年5月19日

NHK教育テレビの福祉関連番組をよく見ている。先日は「福祉ネット」という番組で脳卒中後のリハビリについて特集していた。体が麻痺したり言語障害が起こったりして以前のような生活ができなくなった人たちがいかにして失った能力を取り戻していくのかという様子を、いくつかのケーススタディを通じてみていくというものである。

こうした番組を見ていつも感じるのは、リハビリテーション技術の進歩やそれに携わる関係者の皆さんのひたむきな努力である。以前であれば寝たきりになってそのまま人生を終えてしまう可能性が高かった人々が、適切な医療とリハビリを経て社会へと復帰し、そのなかでさらに生活のクオリティを向上させていく様子は、素直に強い感銘を受ける。もちろんほとんどの出演者がコメントするように現実は決して甘くないのだが、しかしその甘くない現実に対して彼らは右往左往しながらも逃げようとはしない。逃げてしまった人はそのような番組には出ないのだというシニカルな意見もあるだろうが、しかし少なくとも逃げなかった患者や関係者が日本にこれだけ存在することは確かである。また報道メディアとしての正常な機能をほぼ失ってしまったテレビ業界のなかで、それを伝えようとする報道関係者も確かに存在するのである。

リハビリの様子をみていると、リハビリテーションという行為が外国語学習と瓜二つであることがよくわかる。動かそうと思っても動かない体や舌。覚えようとしても覚えられない語彙。健常者からはるかに遅れる反応。まさに外国語学習初心者のすがたそのものである。

ということは、リハビリの理念や手法を外国語学習にも活かすことができるのではないだろうか。たとえば先日の番組では、次のようなことが述べられていた。

一転突破から全面展開――最初からすべてを回復させようとしてはいけない。なにか一つができるようになると、そこから次から次へと展開できるものである。

障害者にも誇りが必要――障害があると人間として誇りが傷つく。誰かに教える、自分だけの役割を持つなど、人間としての誇りを回復する具体的な方策が重要である。

目標がリハビリに向わせる――具体的な目標がなければ長く苦しいリハビリは続かない。以前にやっていた仕事に戻る、もう一度海外旅行にいくなど、具体的な目標が重要である。

好きなことをやるのが一番よいリハビリ――料理の好きな人は料理、音楽の好きな人は音楽など、それぞれに自分がいちばん好きなことをリハビリメニューの中心に据える。お仕着せのリハビリメニューでは効果が上がりにくい。

トレーナーは、ちょっと手を添えるだけ――トレーナーは、代わりにやってやるのではなく、ただ指示するだけでもなく、少しだけ手を添えて、正しいリハビリへと相手を向わせる存在である。

チームを組み、きちんと記録をとる――ひとりの患者に対して一人のトレーナーではなく複数のトレーナーがチームを組んで対処する。一人だけではどうしても視野が狭くなる。また進捗状況や問題点などを記録に詳しくとっておく。それがその後のリハビリに活きてくる。

以上のことは、すべて外国語学習にも相通じることばかりである。こうした他分野の素晴らしい成果を謙虚に学び、それを積極的に取り入れることで、外国語教育の世界もまた大きく進歩するのではないだろうか。

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