成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

リーガル版『ノルウェイの森』

2010年6月15日

<以下、村上春樹『ノルウェイの森』より引用>
四月六日に緑から手紙が来た。四月十日に科目登録があるから、その日に大学の中庭で待ちあわせて一緒にお昼ごはんを食べないかと彼女は書いていた。返事はうんと遅らせてやったけれど、これでおあいこだから仲直りしましょう。だってあなたに会えないのはやはりさびしいもの、と緑の手紙には書いてあった。
<引用終わり>

上記は1987年に発表された村上春樹の小説『ノルウェイの森』の一節である。ご承知のとおり屈指の大ベストセラーで、総出版数は1000万部を超えているという。海外でも評価が高く、英語のほかに中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語などに翻訳されている。

以下は上記の一節の英文訳である。簡潔な文体を利用することで原文のイメージをうまく表していると思う。

<以下、(Norwegian Wood, Haruki Murakami, translated by Jay Rubinより引用>
A letter came from Midori on 6 April. She invited me to meet her on campus and have lunch on the tenth when we had to enroll for lectures. I put off writing to you as long as I could, which makes us even, so let’s make up. I have to admit it, I miss you.
<引用終わり>

さて、ここからはお遊びである。文学的魅力に満ちたこの英文を、もし法律専門の英文ライターがリライトしたとすると、どんなものになるだろうか。試しに、私とパートナーのマイケルとの二人でやってみた。結果は以下のとおりだ。

On the date of April 6, the author (hereinafter referred to as the “Author”) received, from a woman named Midori (hereinafter referred to as “Midori”) a letter in which “Midori” made a proposal regarding the feasibility of a meeting between herself and the “Author” for the purpose of having lunch on the date of April 10, such day being the date upon which students were expected to undertake registration for the courses to be attended thereby. In the aforementioned letter, “Midori” noted that her lack of previous communication with the author had been intentional; nevertheless, “Midori” went on to state, she had perceived that equality had developed in terms of the level of mutual communication initiated between the two aforementioned parties, and that an amicable and mutually beneficial relationship should be resumed, based on the aforementioned perception of “Midori” and her negative sentiments regarding the prolonged absence of contact with the “Author.”
(by Yukio Naruse and Michael Martin)

上記の文体が英語における法律文体つまり「リーガリーズ」(Legalease)である。さてここまでやってみたのだから、さらに遊んでみよう。以下は上記のリーガル文体の「直訳」である。

4月6日、筆者(以下「筆者」)は、緑という名称の婦人(以下「緑」)から、学生が授業科目登録を実施すると予測される4月10日において昼食を持つことを目的として彼女自身と「筆者」とのあいだの会合を有することに対する実現可能性に関する提案を「緑」が行っていることをその内容とする手紙を受領した。上記の手紙において「緑」は、彼女の「筆者」とのあいだの過去の意志伝達の不足が意図的なものであったことを示唆し、にもかかわらず――「緑」は主張を続けた――彼女は上記二名のあいだで開始されている相互意志伝達の水準という観点において平等性が生み出され、かつ「緑」の上述の認識および「筆者」との長期にわたる接触の不在に関する彼女の否定的感情を基盤として相互に有益な関係性が回復されるべきであると認識していた。

こうしたリーガル文体で全文を日英ともにリライトして、リーガル版『ノルウェイの森』をつくったとするとどんなものになるのだろうか。試してみたい気もするが、さすがにそこまで酔狂なマネはできそうもない。

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