成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

リーディングスピード

2011年5月10日

先日、私の受け持つ講座で、受講生の皆さんに現時点での自分の英語テキストの読解スピードを測ってもらった。テキストとして用いたのはFORTUNE誌の原発特集。今回の福島原発の事故を受けて、米国知識人の原発推進派と反対派の両方の意見をまとめたものだ。英文レベルとしては英米の一般知識人が普通に読む程度のものといってよい。

テキスト量は全部で約3500ワード。これを10分間読んで、どこまで読めるのかを測定した。10分間で読めたテキスト量を10で割ると1分間あたりのリーディングスピードがわかる。結果は、多くの受講生が10分間で1500ワードから2000ワードぐらい読めたようだ。1分間スピードにすると150~200ワードぐらい。では、これはどのぐらいのスピードなのか。

あるリーディングトレーニングのテキストによると、英米の一般知識人のリーディングスピードはおよそ1分間300ワード。学者やジャーナリストのような文章の専門家であれば400~500ワード、速読法をマスターしている人であれば2000ワードや3000ワードといった数字もありうるそうだ。

これに比較すると受講生の1分間150~200ワードというのは約半分のスピードだ。遅いと思われるかもしれないが、一般に英語がよくできるといわれる日本人でもリーディングスピードが200ワードに達している人はほとんどいない。多くは100~150ワードぐらいだ。その意味でいえば私の講座の受講生の英文リーディングスピードはきわめて速い。

しかし、それでもネイティブの知識人にくらべると約半分にすぎない。日本人で英語が得意というレベルにあるとしても英語での情報収集能力は英米人の半分にすぎないということだ。日本人が英語だけで仕事をすることがいかに困難かを示す数字といえる。

授業では、もうひとつの測定も行った。上記のFORTUNE誌の記事の日本語の翻訳版も読んでもらったのだ。すると多くの受講生が10分かからずに読み終えてしまった。英語で3500ワード分の情報を、日本語でなら10分足らずで理解できるのである。つまり当講座の受講生の日本語リーディングスピードは、英語に換算すれば1分間で400ワード近くということになる。英米人でいえば、通常の一般知識人よりもかなり早い。学者やジャーナリストに近い数字だ。

一般的に、同一の情報量であれば英語よりも日本語のほうが速く読める。漢字のおかげだ。漢字は1文字で大量の情報を含んでいるので、それを眼にするだけで理解が迅速に進む。極端にいえば漢字の部分だけ拾い読みをするだけでも内容がわかる。

また音声面から考察すると、テキストを読む行為は聴く行為よりもはるかにスピーディである。1ワードの平均音節数を2音節と仮定すれば、上記3500ワードの英語テキストに含まれている音節数は約7000音節。この7000音節を10分で読むとすると1分間の音節数は700音節、1秒間の音節数は約12音節。1秒間に12音節を発音することはできないので、同じテキストを声を出して読み上げるとする、と20~30分かかる。

以上のことから、次の点が明らかになる。
(1)日本人の英語のリーディングスピードは英米人に比べるとはるかに遅い。たとえ英語の上級者であってもネイティブの2分の1程度のスピードである。

(2)同じ内容のものを日本語の翻訳すると日本人のリーディングスピードは一般の英米人よりもずっと速くなる。

(3)読むスピードは聴くスピードよりもはるかに速い。

この3点を踏まえて今後の英語と翻訳の勉強の指針を立ててみよう。まずとにかく英語テキストのリーディングスピードを英米ネイティブの一般人並みのレベル、つまり1分間300ワード近くにまで引き揚げなければならない。そのレベルにまで英文リーディングスピードが高まると、日本語ではさらに速く読めるのだから、日本人は英米人に勝る強力な武器を身につけることになる。リーディング力強化が第一と私がつねに繰り返す理由はここにある。

つぎに、やはり翻訳は重要だということである。英語だけ読んで勉強するのはきわめて非効率である。したがって翻訳されたテキストもうまく利用しながら日英両面からの勉強を進めることが肝要だ。そうすることで日本人としての強みが発揮できる。日本人にとって今後も翻訳が必要とされる大きな理由のひとつはここにある。

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