成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

不定冠詞“a”について

2010年12月6日

不定冠詞の“a”を語源的にみてみると、古英語で“one”だったものが10世紀頃に“an”となり、中期英語(1066年~15世紀後半)の時代に“a”へと変化した。つまり“a”はもともと“one”である(ちなみに“the”はもともと“that”である)。

“a”には冠詞以外に前置詞、助動詞、副詞としての用法がある。前置詞としては「それぞれの、ごとに:ten cents a sheet (1枚につき10セント)」、助動詞としては「(方言・話として)haveの縮小形:We shoulda gone.(=We should have gone.)」などだ。

冠詞としての基本は「同種類のなかの不特定のひとつを示す」というものである。

a balance sheet → 数あるbalance sheetsのなかの不特定のひとつ
an asset → 数あるassetsのなかの不特定のひとつ

固有名詞の前にくると、その固有名詞のなかのひとつということになる。

A Miss Johnson called. ジョンソンさんとかいう人から電話がありました。
He is a Smith. 彼はスミス家の人です。

同種のものを代表して示す総称的冠詞(generic article)という用法もあるが、これは主語の場合のみに限られる。

A cow is useful. 牛は有用だ
A square has four sides. 正方形には4つの辺がある.

珍しい用法としては以下のようなものがある。

<複数名詞の前にくる>
A six years is not so long.  6年間は、そう長い年月ではない。
(6年間をひとかたまりの期間として認識している。Six years are ~とすると、個々の年を強調する意味になる。)

a thirty men 約30人の男たち
(複数名詞につけて概数を表わす)

<形容詞の最上級の前にくる>
It was a most beautiful sight. とても美しい光景だった。

<物質名詞の前にくる>
build a fire 火をおこす
Give me a coffee. コーヒーを1杯ください。

ようするに“a”はどのような名詞とも共存が可能だということである。これは当たり前のことであって、これまで繰り返し指摘してきているように「名詞にaがつく」のではなく「aにつくものが名詞」なのだから、“a”のうしろには基本的にどのような語句がきてもよいのだ(ただ下で紹介するように「aにつく名詞」となったときに英語ネイティブとしては意味的に奇妙に感じるものが一部ある)。

上にご紹介した“a”の「用法」には、それを根底で支えている共通した3つの「認識」がある。「既知・未知」「可算・不可算」「単数・複数」である。

「既知・未知」については、話し手/書き手がそのモノを「既知」であると認識しているときには“the”が選択される。「未知」と認識していれば“a”が選択される。たとえば、一通の手紙を受け取ったとする。その手紙が以前から話題にのぼっており、話し手/書き手・聞き手/読み手ともにすでに知っているなら、I received the letter.と表現される。そうではなく、その手紙について事前にはわかっていなかったとすると、I received a letter.と表現される。しかしその後は手紙のことについて話し手/書き手と聞き手/読み手ともにすでに知っているわけだから、The letter was …… というように、theで表現されることになる。

「可算・不可算」については、話し手/書き手がモノの表現を“a”ではじめるということは、それを「加算」として認識しているということである。上記の「物質名詞につけて普通名詞化する」用法のa fireやa coffeeという表現形式は、元来なら「不加算」として認識するべきfireやcoffeeを、特定の文脈においては「加算」として認識してよいということである。物質名詞であれ抽象名詞であれ、数えられるものとして認識するのであれば、“a”をつけてよい。

ただし“a”をつけると英語のネイティブにとってきわめて奇妙に感じられるモノもある(information、knowledge、equipment、furnitureなど)。こうした名詞についてはできるだけ覚えて正しい使い方をするように努めるべきだが、使い方を間違ったとしてもそれほど気にする必要はない。a peace of furnitureをa furnitureと表現したからといってコミュニケーションが大きく阻害されることはない。実際のところ国際コミュニケーションの場では日本人にかぎらず多くの英語ノンネイティブがa knowledge, an equipmentと使っている。ほめられたことではないが、(プロの日英通訳者・翻訳者は別にして)それほど神経質になることではない。そういったことに神経質をとがらせることで、言葉をつうじてお互いの心をつうじあわせるという、そもそもの目標が損なわれてしまうケースが多い。害多く、益なしである。

最後の「単数・単数」についてであるが、これはいわずもがなだろう。なにしろ“a”はもともと“one”なのだから。

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