成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

ドラッカーから学んだこと

2010年12月25日

(『生きるための経済学 <選択の自由>からの脱却』 安富歩、NKKブックス、pp.156 より引用)
利益は目標とはなり得ない。利益は、組織の運営を維持できるかどうかを決める条件にすぎない。利益が出る事業は継続可能であり、利益の出ない事業は継続不能である。しかし、その組織が何を目指すべきかについては、利益は何も教えてくれない。それを考えるのがトップ・マネジメントの仕事である。(略)これがドラッカーのマネジメント論の根幹である。

(「ほぼ日刊イトイ新聞―はじめてのドラッカー」より引用)
糸井:たとえば、短期的な利益の奪い合いで競ってる人たちの考えてることって、ほとんどまちがってると言えるじゃないですか。
上田:うん、ドラッカーからしたら、大まちがいでね。「金をもうけて、何が悪いんですか?」って堂々と言えちゃう風潮って、ほんとイヤだなぁ。
糸井:先生も、そう思われますか。
上田:結局、資本主義や自由経済っていうものは、「便利だ」ってだけの話ですからね。
糸井:ああ、なるほど。
上田:まぁ、役人が市場をコントロールするよりはマシだろう、ぐらいのもんですよ。それに便利だけど、もろいわけです、すごく。
糸井:ええ、ええ。
上田:大事に育てなきゃならない。
糸井:そうですよね。
上田:だから「金もうけの何が悪い?」というような発言に対して、まともな反論をする財界人がいないってことにぼくね、すごく、腹が立つんです。
糸井:なるほど。
上田:このあいだ、ユニクロの柳井さんが「派遣切りをするような会社は市場から退去していただきたい」とかってNHKの番組で言ってたけど、これを言える人っていまの財界には、なかなかいないんじゃない?
糸井:でも、そういう財界人のかたがたにも『現代の経営』はじめドラッカーの著作から学んだっていう人、たくさんいると思うんですけどね。
上田:そうだよねぇ? おっかしいよなぁ。
糸井:ジャーナリズムなんかを見てると「ドラッカー」を「古い人」のシンボルみたいに扱ってるケースもありますしね。
上田:そうそう、とくにね、若い学者に多いの。あれはもう馬っ鹿じゃないかと!
(引用おわり)

ドラッカーの翻訳者である上田敦生のいうように資本主義や自由経済は便利な社会体制であり、役人が市場をコントロールするよりもマシである。だがその一面、もろい部分もある。だから大切に扱っていかなければならない。ところがいまは「金もうけの何が悪い」という「大まちがい」の発言に対してまともな反論をする財界人がほとんどいない。そのことに上田は大いに腹を立てている。ちなみに上田は経団連の元スタッフである。

その資本主義社会のなかで会社が事業活動をするための必要条件が利益である。利益の出ない会社は継続不可能である。だが会社が何を目指すべきかについては利益は何も教えてくれない。にもかかわらず現在は米国だけでなく日本でも利益至上主義が蔓延しており、会社の目的は利益を最大化することにあるという考え方がジャーナリズムや学者のあいだで大勢を占めている。上田のいう「馬っ鹿じゃないか!」といった状況なのである。なぜこんなことになったのか。上田は続けて次のようにいっている。

(ここから引用)
ぼくはやっぱり、アメリカがひどいと思うな。企業というのは、金もうけのためなら何でもやっていいって思想があまりにも当然のように蔓延しちゃってる。(略)つまりアメリカでは企業というのは自己利益ばっかり追求する存在。(略)そんなとこで「経営学」として教えられてるのが、いわゆる「MBA」なわけですけどね。たくさんの人的・経済的な資源が投入されて、みんないっぱい勉強して、いろんな理論が開発されてるけれども、ろくな経済社会になってないわけですよ。
(引用おわり)

資本主義と自由市場は便利だけれども、もろい。ときとして社会の害にもなる。したがって、つねに丁寧に扱い、こまめに世話をしてやらなければならない。その意味では資本主義と自由市場のすがたは我々の日々の努力のありようを映し出す鏡だといえる。「金もうけの何が悪い」という発言をすることは、そうした丁寧な扱いとこまめな世話を放棄したことを示すものであり、彼らこそが本当の意味での資本主義と自由市場の敵である。

私が受け持つサイマルアカデミー産業翻訳コースの今期のカリキュラムでは、まずドラッカーの原著を読んで訳し、それから財務会計の基礎を勉強し、そしてある会社のアニュアルレポートを読んで訳すというかたちをとっている。このカリキュラムのなかで私が受講生の皆さんに学んでいただきたいと思ったことは、以下のとおりである。

まずドラッカーの原著を読むことで、利益は事業を継続するための条件であって目的ではないことを理解することである。つぎに財務会計を勉強することで、しかし利益なしでは会社は事業を継続できないことを理解することである。そして最後にアニュアルレポートを読むことで、そうした条件のなかで実際にどのような経営がおこなわれているかを学ぶことである。

自由経済を絶対視してはいけない。敵対視してもいけない。私たちがもっと幸せになるためには、自由経済という名の「便利で、もろい道具」に振り回されるのではなく、それをうまく使いこなしていかなければならない――これが私がドラッカーから学んだことのひとつである。

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