成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

感性を引き出すトレーニング

2011年1月21日

(引用はじめ)
例えばスクワットにしても「50回やれではなくて、足の裏の中心に重さを感じてる?といった内的な言葉を投げかける」。回数や重量にこだわって筋肉をいたずらに太くするより、選手が持つ感受性と共振させる方向にトレーニングを持っていく。本来あるはずの繊細な感性やタッチをより引き出せるように。
(引用おわり、日経新聞 2011年1月21日 スポーツ面コラムより抜粋)

上の文章は日経新聞の記者がスポーツトレーナーである渡部文緒さん(36)にインタビューした記事の一部である。渡部さんはフィギアスケートの高橋大輔選手のトレーナーであり、また昨年の高校サッカー選手権で準優勝した久御山高校の指導も受け持っている。

記事によると久御山高校は普通の公立高校だけに他の有名私立校にくらべて筋力の足りない選手が多いという。だがそれでも渡部さんはマシンを使った筋トレはしない。渡部さんがおこなっているのは、本来あるはずの繊細な感性やタッチを引き出すトレーニングである。そして「選手が持つ感受性と共振させる方向にトレーニングを持っていく」ためにトレーナーとして投げかける言葉が「足の裏の中心に重さを感じてる?」といった「内的な言葉」である。

分野こそ違うものの同じトレーナーの一人である私は、渡部さんのトレーニング哲学に強く心を惹かれた。トレーニングとはただ重い負荷をかければよいというものではなく、「本来あるはずの繊細な感性やタッチを引き出す」ことが大切なのである。そしてそれに向けて適切な言葉を投げかけることがトレーナーの仕事である。

私自身のことをいえば、去年トレーニング方法をウェイト中心からウォーキング中心に変えた。その際に意識したのが歩き方そのものを変えることだった。それまではおもに太ももの筋肉を使って歩いていたが、それを変えて腰の内側にある大腰筋を使って歩くことを意識した。大腰筋は上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉で、背骨や骨盤を支えたり太ももを上げたりする役割を果たしている。ただし体の外側からは確認できず、こうした筋肉をインナーマッスルという。その大腰筋を強く意識しながら歩くやり方を自分なりに工夫してみた。具体的には、東洋医学でいうところの「丹田」(お臍より少し下)の部分にしっかりと力を入れながら、太ももの力はあまり使わずに、腰の付け根から足全体をすっと前に送り出すイメージである。

最初はなかなかうまくきなかったが、数週間もするとだんだん慣れてきて、大腰筋で歩くイメージが明確になってきた。そうするとトレーニング後の疲労の部位が太ももではなく腰周りに集中するようになり、それにつれてウェストが細くなっていった。結局のところ2カ月ほどでウェストは15センチほど細くなり、体重は18キロ減少した。もちろんこれを生み出した要因にはトレーニングメニューの変更だけではなくダイエット(食事)の変更もあるのだが、歩くイメージを太もも中心から大腰筋中心に変えたこともウェストと体重の減少の一要素となっていることは間違いないだろう。

今回の体験は私にとってまさにコペルニクス的転回(常識がひっくり返ること)だった。もともと私は根っからのハードトレーニング派で、心拍数を最大限にまで上げて苦しさを体験しないとトレーニングをした気にならない。「体をいじめる」ことがトレーニングだと思っていた。

ところが今回のウォーキングトレーニングにはそうした苦しさがない。連続1時間ほど歩き続けるのだが、心拍数はそれほど上がらず、汗の量も少ない。大腰筋を使うというイメージの保持には注意するものの、あまりにもオキラクで、トレーニングをした気にならない。ところがそうした「オキラク」トレーニングが肉体的には大きな効果を生みだしているのである。渡部さんふうにいえば、私の体が持つ「本来あるはずの感性」が引き出されたのだ。渡辺さんは「心の在りよう一つでトレーニング効果にも差がものすごく出る」とも述べているが、まさにそのとおりである。

同じことが英語のトレーニングにもあてはまるだろうと思う。がむしゃらに暗記をしたり聴いたり話したりする「ハードトレーニング」は大切である(ハードトレーニングが不要だと間違ってはいけない。オキラクなだけではどんなことも成就できっこない)。しかし「本来あるはずの感性を引き出す」ための「ソフトトレーニング」も同様に大切なのである。

渡部さんの教えをしっかりと胸に刻みつつ、語学トレーナーの一人として、これからはハードとソフト、フィジカルとメンタルという2つのトレーニング手法をうまく融合していきたい。

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