成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

文アクセント

2010年9月20日

英語学習のスタートは音声をきっちりとマスターすることにある。英語は音声を基本とする言語なので音声の理解と習得ができなければリスニングや会話だけでなくリーディングやライティングも(本当の意味では)できなくなってしまうのだ 。

ところがこれまでの日本の英語教育はその大切な英語音声の理解と習得をきわめて軽視してきた。そして多くの英語学習者が英語音声についての知識も訓練もないままに英語の文章を最初から読まされてきた。これではカタカナ英語の悪いクセがつくばかりで百害あって一利なしである。

なかでも教えられていないのが「文アクセント」(Sentence Accent)の存在である。高低アクセントをもつ日本語とはちがって英語は強弱アクセントをもつ言語だ。このことは多くの英語学習者が知っているが、その強弱アクセントが単語だけではなく文においても適用されなければならないことを知っている学習者は少ない。

簡単にいえば冠詞、人称代名詞、関係代名詞・副詞、助動詞、不定形容詞、前置詞、接続詞といった「機能語」(function word)は基本的に強いアクセントを持たず、すべて弱アクセントになるのである。以下の例文をみてほしい。

例文1 Tom ate an apple and a pear.

上記の例文1ではTom, ate, apple, pearが内容語(content word)で、an, and, aが機能語である。したがってan, and, aはきわめて弱いアクセントになる。

例文2 I told her to take them away.

この例文2では人称代名詞のI, her, them、前置詞のtoが弱いアクセントの語になる。とくにtoはほぼ消えてしまうといって過言ではない。

例文3 Give me some coffee.
この例文3では人称代名詞のmeのほかに不定形容詞のsomeも弱いアクセントになる。極端なことをいえばmeもsomeもほとんど聞こえず、Give…coffeeと聞こえるほどである。

例文4 I am tired.
この例文4では代名詞のIとともにbe動詞(am)もほとんど聞こえない。

多くの日本人は文アクセントのために弱くなった(消えてしまった)単語を強いかたちのまま発音してしまう。以下のようにである

例文1 Tom ate an apple and a pear→トムエイト「アン」アップル「アンド」「ア」ピア
例文2 I told her to take them away.→「アイ」トールド「ハー」「ツー」テイク「ゼム」アウェイ
例文3 Give me some coffee.→ギブ「ミー」「サム」コーヒー
例文4 I am tired.→「アイ」「アム」タイアード

これに対しては「“アンアップル”ではなく“アナプル”のほうが本当の発音に近い」「“ギブミー”ではなく“ギミ”にしなさい」というアドバイスがよくなされるが、学習者に本当に必要なのは、そうした対症療法ではなく、抜本的な治療なのである。

抜本的治療をするには、まず英語と日本語の音声の本質的な相違点として、英語における文アクセントの存在を教えるべきである。ただそれだけのことで、学習者の英語発音は飛躍的に改善されるはずだ。保証してもよい。なぜなら私自身がそうだったからである。

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