成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

翻訳語「主語」「動詞」「目的語」を廃止せよ

2010年7月12日

ここで述べたいのは文法概念としてのSubject, Verb, Objectと廃止せよということではもちろんない。その翻訳語である「主語」「動詞」「目的語」を廃止せよという主張である。なぜなら、これらの翻訳語が日本人の英文法理解を意味なく混乱させているからである。以下、その理由を説明したい。

まずSubjectの訳語の「主語」についてである。これには大きな問題点がふたつある。ひとつは、Subjectはそもそも「語」ではないということである。それは文法概念としての「部分」「部」である。ところがそれを主「語」としたことで、句や節のかたちをとるSubjectまでを主「語」と呼ばなければならなくなった。矛盾もいいところだ。したがって、少なくとも主「語」ではなく主「部」でなくてはならない。

もうひとつは、Subjectは英文センテンスの「主」ではないということである。辞書によると、「主」とは「いろいろあるなかで中心をなすこと。主要であること。第一である・こと(さま)」(大辞林)である。たしかにSubjectはセンテンスにとって重要な要素ではあるが、しかし「主」とするまでの地位は占めてはいない。語源的にみてもSubjectに「主」にあたる意味はない。

では「主語」の代わりにSubjectにはどのような訳語をあてればよいのか。単に記号化するのであれば「サブジェクト」がよい。意味的に無色透明だからだ。漢字を使うのならば「提題部」はどうだろうか。Subjectはトピックや動作主を提示する部分だからだ。

つぎはVerbの訳語の「動詞」についてである。 この翻訳の最大の問題点は、品詞(Noun, Adjective, Adverb, etc.)としての“Verb”と、構文要素(Subject, Predicate, Object, Modifier, etc)としての“(Predicative) Verb”との区別ができていないことにある 。そのため多くの日本人が品詞としての動詞と構文要素としての述語動詞を混同して理解している。あるいはそれを混同していることすら気づいていない。

では構文要素としてのVerbには「動詞」の代わりにどのような訳語をあてればよいのか。「述語動詞」という訳語があるが、これはおかしい。Subjectと同様にPredicateもまた「部」であり「語」ではないからである。少なくとも「述部動詞」にすべきである。さらに述部の一要素ということを明確にするために「項」をつけて「述部動詞項」とするのがよいと考える。もちろん「プレディカティブ・ヴァーブ」とカタカナ表記するのもよい。

Objectの訳語である「目的語」についても同様である。「述部目的項」または「オブジェクト」でよいと思う。さらにはComplement(補語)については「述部補足項」または「コンプリメント」、Modifier(修飾語句)については「修飾項」または「モディファイア」にすることを提案したい。

個人的には無理に漢字表現にするよりもカタカナ表現のほうがよいように思う。意味的に無色透明だからだ。

文法用語など些細なことではないかと思われる方もいるかもしれない。しかし決してそうではない。よちよち歩きの赤ん坊と同じように、語学初心者はほんの些細なことでも簡単につまづくものなのだ。したがって赤ん坊のいる家に無用な段差をつくってはいけないように、英語学習環境においても無用な混乱を招くようなことはできるかぎりなくすべきである。

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