成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

産業翻訳者能力判定テスト

2010年4月22日

前号ではTOEICについてふれた。たしかに大きな限界はあるもののTOEICは英語の能力を測る道具として優れたもののひとつである。しかしTOEICが測ることのできる英語能力は基本的な英語運用能力にすぎない。翻訳者に不可欠である高度な英語力、あるいは日本語力や知識の豊かさについてはまったく測ることができない。したがってTOEICの点数が高いからといって翻訳者としての能力が高いわけではない。TOEICと翻訳者能力との相関性はゼロに近い。

では翻訳者としての能力を測る「ものさし」はあるのか。翻訳検定なるものがあるときいて少し調べてみたが、使いものにならない。翻訳者の能力テストというよりも検定ビジネスとしての色合いが濃いようだ。各翻訳会社のトライアルも少しみてみた。よいものもあるが、いかんせん専門的にすぎて一般性に欠ける。たとえば金融翻訳ならデリバティブの専門用語を知っていなければならないだろうが、すべての翻訳者にそれを求めるのは筋違いになる。

どうやらプロ産業翻訳者としての能力を測るものさしは、まだないようだ。それならば自分でつくってやろうと思いたち、さっそくつくってみた。それが「産業翻訳者能力判定テスト」である。

テストの主要対象は、おもに経済分野の翻訳にたずさわるプロ翻訳者およびその予備軍とした。

作成方針としては、まず第一に内容の高度さとスピードを重視した。高度な内容をスピーディにこなせるかどうかがプロ翻訳者としての第一要件だからである。

第二に、オールラウンドな能力の測定を重視した。英語力のみならず日本語力、知識、思考力など翻訳者に必要な能力をすべて使わなければできない内容にした。プロ産業翻訳者にはそうした総合的な能力が不可欠である。

第三に、規定時間内には処理できない大量の設問を用意した。したがって満点はほぼ不可能である。このテストで満点のとれる翻訳者は日本に100人いないはずだ。実際の翻訳ジョブはつねにオーバーフローする。そうしたプレッシャーのなかでいかに仕事をこわさないかがプロ翻訳者には問われている。トレーニングの場は別にして現実のジョブでは「つねに60点以上」主義でよい。100点と20点というふたつの仕事の平均点は60点ではない。0点である。

基本的にプロ翻訳者を対象として開発したテストだが、もし挑戦してみたいという方がいらっしゃれば、ご連絡をいただきたい。そうした意欲のある方は大歓迎である。なんらかのかたちでテストを受けていただき、当方も真剣に採点とフィードバックをさせていただきたいと思っている。

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