成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

電力改革私案

2011年5月18日

毎日新聞の『エコノミスト』誌が最新号で「脱原発」特集を組んでいる。原発に関しては突出して良い記事なので、ご興味のある方は、ぜひお読みいただきたい。

この特集のなかで本橋恵一氏が発電、送電、配電の分離案を提唱しているが、これについては私もずっと考えていたことなので、ここで私なりの私見を述べさせていただく。考え方や論の進め方に異論もあろうかと思うが、読んでいただいたうえ、そうした点についてご教授いただければ幸いである。

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現在の日本の電力市場の根本的な問題点は次の二つであると私は考える。第一は、現在の電力システムが消費者ニーズを完全に無視していること、第二は、原子力発電というあまりにリスクの大きいシステムを民間企業にまかせていることである。

第一に、消費者である一般市民には電力商品の選択の自由がない。たとえば脱原発に賛成する市民は原発を利用する電気を購入したくない。たとえ値段が高くとも自然エネルギーを利用した電力を購入したいと考えている。逆に原発を許容する市民や企業は、電力料金はさらに安いほうがいいと考えている。しかし現在の電力システムでは、そうした市民や企業のそれぞれのニーズに応えることができない。単一商品を単一価格で提供するだけだ。さらに電力市場は地域ごとの独占市場であるため、市場としての競争原理も働いていない(一部自由化は行われているが、影響力は微小である)。

第二に、今回の原発事故で明らかになったように、原子力発電の抱える社会的、経済的リスクはきわめて巨大である。その大きさは、地域的には地球全体にも及び、時間的には数百年にも及ぶ。これほどの巨大なリスクを、民間企業で管理することはおよそ不可能である。ところが現在、その巨大リスクを民間電力会社が引き受けるかたちになっている。今回の事故対応の遅れの根本的な原因はそこにある。

現在の日本の電力システムにおける、この二つの根本的な問題点を解決するための具体的方法が、発電、送電、売電(配電)の分離であると私は考える。

第一に考えなければならないのは、送電網の社会的共通資本化である。電力システムのボトルネックとなっているのは、送電網だ。ここを社会共通資本にして、誰もが公平に使えるようにすれば、発電と売電の両部門を民間企業にまかせることができる。そうすれば市場での健全な競争が進み、消費者ニーズにマッチした多様な電力商品が提供されることになる。

第二に考えなければならないのは、原子力発電の政府管理である。前述のように原子力発電の抱えるリスクはあまりにも巨大であり、利益追求を基盤とする民間企業で管理することは不可能だ。今後も原子力発電を利用するのであれば、少なくとも社会全体の安全に対する責任を有する組織、すなわち政府がその任にあたらなければならない。原子力発電は本質的に市場原理と相容れない。

以上の点を鑑みると、新しい電力システムの全体像は次のようになる。

・ 発電――原子力発電以外は民間企業。原子力発電は政府管理。
・ 送電――社会的共通資本として政府(及び地方自治体)が運営管理。
・ 売電――民間企業。

もちろん安定供給や危機管理の方法など検討しなければならない点は多々ある。しかしそれらはすべて解決が可能であると私は確信している。

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こうした改革を阻むのは、電力会社やそれに関係する人々など既存勢力による抵抗だろう。その抵抗力がいかに強大かについては、メディアでも数多く取りあげられている。だがどんな改革にも抵抗はつきものである。そうした抵抗に屈するようでは前に進むことはできない。今回の福島の事故を無駄にしないためにも、私たちはこれから電力改革に敢然として向っていくべきである。そのためには多くの人々の英知を結集させる必要がある。みんなで日本を変えていこうではないか。

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