成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

1294円と2730円

2010年10月24日

10月24日の日経新聞の書評欄で『肥満と飢餓――世界フード・ビジネスの不幸のシステム』(ラジ・パテル (著), 佐久間 智子 (翻訳))という翻訳本を見つけた。たいへんに興味深い内容だったのですぐに購入することにした。

そこでアマゾンで同著とその原著であるStuffed and Starved: Markets, Power and the Hidden Battle for the World Food Systemをチェックしたところ、日本語の訳本のほうが2730円、原著のほうは1294円だった。なんと、訳本の値段が原著の値段の2倍以上するのである!

さらに同著者の新著であるThe Value of Nothing: How to Reshape Market Society and Redefine Democracyの値段は1101円。つまり、この2冊を買っても2395円で、訳本一冊の2730円よりも安いのだ。これではとても訳本など買えるはずもなく、結局のところ、原著二冊を2395円で購入することにした。

アマゾンでの購入手続きを進めながら、日本人にとって本当に厳しい時代がやってきたものだと、あらためて感じた。

運の良いことに私自身は英語の原著を読むことにそれほど不自由しないが、ほとんどの日本人にとっては、英語の本を英語のままで読むことはきわめて困難なことだろう。となれば訳書で読むしかないのだが、その訳書の値段が、なんと原著の2倍以上もするのである。また近年になっても出版翻訳のレベルはほとんど向上しておらず、誤訳やひどい日本語表現のオンパレードでもある。つまり日本人の大多数が、法外なお金を払いながら欠陥商品を買わざるを得ない状態なのだ。

知的な領域において、これは圧倒的なハンデといわざるを得ない。例えていえば、大きな重石を腰につけながら世界のライバルとマラソン競争をしなければならないといった状況である。勝てるわけがない。

ではどうするか。まず、とにもかくにも英語の本を英語のままで読めるようになることが不可欠である。翻訳のクオリティがどうこうのというのは、そのあとのことだ。ところが、英語学習の現場では英語リーディングのトレーニングはきわめて軽視されているのが現状だ。いま誰もが「英会話」に夢中なのである。英語が読めて書ければ英会話はできると私がいくら力説してみたところで誰も信じてなどくれない。私だけでなく英語の達人たちがそういっても無駄だろう。それほどまでに英会話なるもののマインドコントロール力は絶大なのである。

今後も日本人は、大きな重石を腰につけながら世界のライバルたちとマラソン競争を続け、そしてどんどん後方へと置き去りにされることになるだろう。日本と日本人にとってどうにも暗い未来予想なのだが、高い確率でこの予想は当たるはずである。ただし、もし英語教育がこれからもいまのままであれば、という限定条件つきだが。

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