成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

English as an International Language

2010年6月20日

英米において第二言語としての英語の教授法はTeaching English as a Second Language (TESL)などと呼ばれ、資格にもなっていることはすでにご存知の方も多いだろう。その一方でTeaching English as an International Language (TEIL)という言葉を聞いたことのある方は少ないのではないだろうか。

ある学者は世界の英語使用国を、Inner Circle(英語ネイティブ国,)、Outer Circle(英米の元植民地国)、Expanding Circle(それ以外の英語学習国)の3つに分けている。Inner Circleで使われる英語がENL(母語としての英語)、Outer Circleで使われてる英語がESL(第二言語としての英語)、そしてExpanding Circleで使われる英語がEIL(国際言語としての英語)である。

英語使用人口はENLで3億2,000万人~3億8,000万人、ESLで1億5,000万人~3億人、EILで1億人~10億人とみている。外側へいくほどに精度が落ちるのは、どのレベルまでを英語使用者とみなすかの定義づけが難しいからである。この調査は1997年のものだが、インターネットの普及や経済のグローバル化などを受けてEILの使用人口はいま爆発的に増えており、現在の数字はこお数倍になっていると考えられる。

このEILを教えること、つまりTEILの前提、目標、手法を考察している好著が、サンフランシスコ州立大学教授Sandra Lee McKayのTeaching English as an International Language (Oxford University Press)である。ここからは、同書で示されているTEILの前提、目標、手法についてみていくことにしよう。

まずEIL(国際語としての英語)の前提についてである。同書のなかでMcKayは以下の3点をEILの前提として挙げている。

第一点は、EILは生活のためではなく、異文化間での仕事や研究のために使われる言語だということである。おもに同一文化内での生活のための言語であるENLやESLとはまさに対照的な存在だといえる。

第二点は、EILにはネイティブ並みの英語力は要求されないということである。たとえば発音についてはネイティブ同様になる必要はなく、また英米文化に根付いたような表現については特に覚えなくてもよい。

第三点は、さまざまなタイプの英語はすべて平等であるということである。クイーンズ英語やボストン英語がインド英語よりも優れているといった思い込みは捨ててしまわなければならない。

こうした3つの前提のもとに、McKay はTEILの目標として、以下の3点を挙げる。

第一点は、TEILにとって目標とすべきはIntelligibility(理解できること、明瞭性)を高めることであって、ネイティブ英語としての完璧さを追求することではないということである。たとえばEILの学習者がequipmentを誤ってequipmentsとしてしまったとする。これはネイティブ英語としては間違いだが、しかしそれがEILとしてのIntelligibilityにそれほどの影響を与えないのであれば、そのことを敢えて指導の対象にする必要はない。

第二点は、TEILではcomity(相互の礼譲、礼節)を高めあうことをその目標とするべきである。したがって、ネイティブ英語話者だけが特権的な地位を持って他の人々の間違いを正すというような態度はとってはいけない。

第三点は、TEILでは会話ではなく読み書きを重視するべきである。前提のところで述べたようにEILは生活のためではなく異文化間での仕事や研究のために使われる言語であり、その媒体としては本や書類やインターネットといったテキストが圧倒的である。したがって会話よりも読み書きを重視するのは当然のこととなる。

そしてこれらの前提と目標をもとにして、McKay はTEILの教授法について、次のように述べている。

まず教材だが、英米文化に関するものではなく、国際問題や自国の文化や社会に関するものを使うべきである。そうすることで、学習者が持っている知識が十分に活かせることになる。また、英語で自国の文化や社会について学ぶことにより、従来とは異なる観点から、自己と自国を見つめなおすことができる。

教え方については、英米で開発された手法を押しつけるのではなく、それぞれの国の文化や伝統にあった手法を開発し、それぞれの環境にあわせて柔軟に用いるべきである。コミュニカティブアプローチは万能ではなく、そもそも万能の教授法など、どこにも存在しない。

そして教師であるが、英語ネイティブ教師ではなく、それぞれの国の英語教師が自国の英語教育のリーダーシップをとるべきである。その国の文化、社会、そしてなによりも生徒のことを一番よく知っているのは、その国の英語教師たちであるからである。

以上がTeaching English as an International LanguageでSandra Lee McKayが述べていることの概要である。同書を最初に読んだとき、その内容が私の考えてきたこととあまりに一致するので、たいへんに驚くとともに、とても嬉しく感じたものである。英語教育関連の文献については日本語、英語ともにかなりの数を読んだが、どれもみな英米中心の考え方ばかりで、私の考えと一致するものはなかった。この本に出会って、はじめて自分の仲間を見つけたような気がした。また同書はBen Warren Prizeという賞をとっており、欧米で高く評価されていることも私にとって大きな励みになっだ。

最初に書いたように日本ではEILやTEILはまだあまり知られていない。今後は微力ながらもEILやTEILの普及に努めていきたいと思っている。

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