成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

I love rock n’ roll (2): put another dime

2010年5月31日

5月30日にアップした「I love rock n’ roll」では、サビの部分の一行の発音についてリズムおよび音の脱落・連結という観点から説明した。ここではサビの別の一行であるSo put another dime in the jukebox, babyのput another dimeの部分について、こんどは舌の動きを中心に、その発音の仕方を説明する。皆さんは、ぜひ自分の舌を実際に動かしながら読んでみてほしい。

まずput another dimeは「プットアナザーダイム」ではない。このことはすでにお分かりのことと思う。そんなふうに発音したらこの曲のリズムにはまったくついていけない。音の数が多すぎる。いいかえれば、舌が動きすぎるのである。

まずputの最後のtは「ト」ではない。絶対にない。これがおそらく多くの日本人にとって英語発音の最初の大きな関門になるところだろう。

tを発音するときには、上あごの前のほうに舌をくっつける。それから、はじく。やってみてほしい。

ところが英語の早口でのput anotherの発音では、この「はじく」という行為をまったくしなくなる。そのかわりに舌を上あごにつけたまま、音を「のみこむ」。だから実際にはtの音は出ていない。そしてそのままanotherへと続いていく。

つぎのanotherの最初のaは「ア」ではない。絶対にない。これもまた非常軽くあいまいな音で、そしてそのままnの音へと続いていく。

さてnの音の舌の位置だが、これはtの音と同じ位置である。つまりput anotherの発音では、put anotherの-tano-の部分では舌は同じ位置にとどまって動かないのである。

ここが日本人にとって問題となる第二の点だ。日本人には「プットアナザー」というカタカナ発音がすでに脳内にインプットされているので、「トアナ」の部分で舌を大急ぎで動かす。しかし実際の英語では、このあいだに舌はほとんど動いていないのだ。

カタカナ英語の舌の動きをサッカーにたとえれば、ただやみくもにピッチを走っているだけで実際のプレーには何も参加していない感じである。だから疲れる。そして役に立たない。

いっぽう、このことを捻じ曲げて解釈して、だからput anotherの発音は「プタナザ」でよいなどという人もいるが、これは完全な間違いである。なぜなら「プタナザ」はそもそも英語ではない。日本語でもないが。

つぎの-therだが、もちろん「ザ」ではない。舌が上あごにくっつく位置はtやnよりもかなり前になる。前歯の先端あたりをイメージすればよい。舌を突き出す必要はない。前のnの音の位置からすべらせるように舌先を前へともっていけばよい。そうするとスムーズに移動できる。やってみてほしい。

そして最後のdimeだが、このdの舌の位置は、t, nとまったく同じである。とすると、thでいちど前に移動させた舌先を、もういちど元の位置へと戻せばよい、ということに気づく。そして最後のmは口を閉めるだけ。舌の位置は無関係だ。

ようするに実際の英語では、put another dimeというワンフレーズにあいだに、舌は上あごの前部分から前歯の先端のあいだを一往復するだけにすぎない。極端なことをいえば、ほとんど動いていない。

ところが日本語の「プットアナザーダイム」では舌は動きに動きまくる。またもやサッカーに例えると、本当の英語ではサイドバックがちょっとだけ前に押し上げてから元の位置へと戻っていくあいだに、カタカナ英語ではサイドバックがピッチ上をすみからすみまで駆け回るようなものだ。さらに、そのように駆け回ることは役に立たないばかりか、ゲームの邪魔になる。

以上のことで、日本人が英語の発音トレーニングで心得るべき点のひとつが、効率的な舌の動かし方であることがわかっていただけたと思う。あとは実践あるのみだ。繰り返し繰り返し練習してみよう。

Categories: ことのは道中記 日本人の英語教育