成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

Nominalization

2010年6月28日

Nominalizationという言葉をご存知だろうか。「名詞として用いる」という意味の動詞nominalizeの名詞形である。日本語では「名詞化」と訳されている。

「名詞化」は、行為者が誰なのかを隠そうとするとき、あるいは客観的イメージをかもし出したいときに用いられる代表的な手法のひとつである。したがって当然のことながら、役所や学問の文書には受動態とともに名詞化がふんだんに用いられている。

英語のセンテンスは、述語動詞がアクションを直接的に表現している場合が、一番わかりやすい。ところがそれに反して、公式文書を作る際にはどうしても仰々しい文章を書こうとする。その典型的なやり方が、述語動詞でアクション(controlやdisseminate)をじかに表現するのではなく、アクションがあることを述べるためだけの述語動詞(beやexercise)を使うことである。

·There has been effective staff information dissemination control on the part of the Secretary.

·The Secretary has exercised effective staff information dissemination control.

以下の例のconductもその一例である。

·The police conducted an investigation into the matter.

このようなbe、exercise、conductは、それ自身は独自の意味をほとんど持たないことから、“empty verb(虚動詞)”と呼ばれている。このempty verbをなるべく使わないことが、優れた英文センテンスをつくつためのひとつの条件である。

ではどうすれば「名詞化」を使わずに英語のセンテンスをつれるのだろうか。以下はその具体的手法である。

第一の手法は、名詞化表現を動詞に変えて虚動詞の代りに使うという手法である。

·The police conducted an investigation into the matter.
·The police investigated the matter.

第二の手法は、there isまたはthere areのあとに名詞化表現が続いている場合、名詞化表現を動詞に変えて、その主語を見つけるというものである。

·There is a need for further study of this program.
·The engineering staff must study this program further.

ただしこの場合には、「主語(行為者)隠し」が同時におこなわれていることが多いため、主語(行為者)を見つけ出すのができないケースもよくある。上記の例も同じで、ひとつめの例文からだけでは、行為者がengineering staffかどうかはわからない。

第三の手法は、名詞化表現が虚動詞の主語である場合、名詞化表現を動詞に変えて、新しい主語を見つけるというものである。

·The intention of the IRS is to audit the records of the program.
·The IRS intends to audit the records of the program.

第四の手法は、名詞化表現が連続している場合であって、これまでよりも難しい手法が必要となる。まず最初の虚動詞を動詞に変える。そして2番目のものについては、そのままにしておくか、あるいは、how節かwhy説のなかで動詞化するのである。

原文:There was first a review of the evolution of the dorsal fin.
第一変形:First, she reviewed the evolution of the dorsal fin.
第二変形:First, she reviewed how the dorsal fin evolved.

さて、最後の第五の手法は、きわめてややこしい。主語のなかの名詞化表現と述部のなかの第二の名詞化表現が、その二つを論理的につなぐ動詞または句でリンクしている場合である。書いているだけで、ため息が出る。具体的は以下のとおりだ。

·Their cessation of hostilities was because of their personnel losses.

これを書き換えると次のようになる。

·They ceased hostilities because they lost personnel.

日本人の英語ライティングにおける隠れた問題点は、受動態や名詞化を使った「主語隠し」「客観偽装」を、まるで高尚なことのようにみなしてしまい、それを積極的に真似しようとすることである。

多くの英語ネイティブは論文など「かたい」文章を書くときに、虚動詞を使ったバージョンを書いてしまうことが多い。だが、それは決して褒められたことではないのである。ところが私たちはそれを英文の「正式」バージョンだと思い込み、積極的に真似しようとするのだ。さらには、英語ライティングの参考書のなかにも、そうした風潮をかえって煽るものさえある。

もちろん受動態や名詞化には適正な使用方法があり、それをうまく使うことで文章クオリティが向上することもある。しかし一般的にいって現在のネイティブ英語ライティングには、受動態と名詞化があまりにも多く使われすぎている。したがって受動態や名詞化をもっと慎重に用いたほうがよいとWilliamsをはじめ英文専門家たちは繰り返し主張している。だが、責任を逃れたい、客観的にみられたいというのは、私たち凡夫の共通かつ普遍の願いであるから、実際には、受動態や名詞化が減ることはない。

そうしたなかで私たち日本人が英語(特に国際英語)を書くときに心すべきは、こうした英語ネイティブの悪弊をけっして真似しないことである。すなわち受動態や名詞化については、適正な場合以外には、できるかぎり使わないようにすることである。

文章を書く際に大切なのは、なによりもClarity(明晰さ)である。受動態や名詞化をふんだんに使った仰々しいスタイルの英文ではなく、誰にでもわかる簡潔で明晰なスタイルの英文が書けるようになること。それが私たち日本人の英語ライティングにおける目標である。

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