成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

SATOYAMA Initiative

2010年12月29日

英語教育では教授法、つまり英語をいかに教えるかについてはさまざまな議論がなされているが、内容、つまり英語で何を教えるかについては、あまり深い議論がなされていない。外国語はあくまで道具であり、大事なことは、その道具を使って何をするかである。したがって英語授業では英語を使う技術を学ぶとともに、人間としての成長につながり将来の役にも立つ内容を学ぶべきである。

しかしいまの英語教育はそうなっていない。英語という道具そのものについての解説をしたり、道具としての使い方を教えようとする。そして肝心の内容の部分については英会話であったりハリウッド映画であったりする。英語で日常会話ができるようになったりエンターテイメント映画を楽しめるようになることが人間としての成長につながり将来の役に立つ内容なのだろうか。一方でもっとしっかりした内容を教えるべきと主張すると、では日本文化を教えましょうということになる。英語で日本文化を学ぶことが無駄とはいわないが、それが英語学習に最も適しているとは思えない。当たり前のことだが日本文化はまず日本語でしっかりと学べばよい。英語で学ぶ内容としては日本文化よりももっとふさわしいものがあるはずである。

以前の英語教育では英米文化を教えることを目標のひとつにしていた。英語の教科書には聖書やシェークスピアやワーズワースが載っていた。漢文が古代中国文明にふれる窓口であったように、英語は英米文化を学ぶ窓口であった。だが1980年代にコミュニカティブアプローチが導入された後は、英語の授業は英米文化を学ぶ場所ではなくなってしまった。その代わりに、コミュニケーション力の向上が英語学習の目標となった。このとき日本の英語教育は、英米文化ではなく英語の使い方の教えることに大きく舵を切ったのである。

ここでの問題は、英米文化を教えなくなったことにあるのではない。英語で何かを教えなくなったこと、それ自体にある。したがって今後の英語教育では、コンテンツを重視する方向性に舵を切るべきである。そしてそのコンテンツの第一の候補となるべきものが、環境問題であると私は考える。環境問題は人類にとって共通かつ焦眉の課題であり、また英語が必要不可欠な領域でもあるからである。

そしてその環境問題のなかで最もお奨めなのが、「SATOYAMA Initiative」である。このプロジェクトは、日本の環境省と国連大学高等研究所(ちなみに国連大学は東京にある)が共同でおこなっているもので、長期目標として「自然共生社会」の実現、すなわち人と自然の良好な関係が構築されている社会の実現をめざすというものである。まだ始まったばかりのプロジェクトだが、「人と自然の良好な関係が構築されている社会」においては先進国のひとつである日本から発信される世界的環境保全プロジェクトとして今後の発展が期待できる。

具体的な学習方法としては、SATOYAMA Initiativeのウェブサイト(http://satoyama-initiative.org/jp/)を利用するのがよいのではないだろうか。プロジェクトに関する情報のほかに、世界各国でのケーススタディやビデオクリップなどが掲載されている。日英バイリンガルサイトなので、日英、英日の翻訳教材としても使えるはずだ。これを利用して自分自身のまわりのSATOYAMAやSATOUMIの研究をして、その成果を日本語と英語でまとめてみるのもよいだろう。私の場合には妻の実家が南信州の天竜川沿いなので、まずその地域のSATOYAMAの研究をしてみようかと思っている。

SATOYAMA Initiativeは、環境問題、日本発、国連主導という要素がそろっており、日本人のための英語のコンテンツの学習としてまさに最適である。こうしたコンテンツを英語教育にうまく活かしていくことによって、真の意味での日本人のグローバル化が進むのではないかと思う。

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