成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

We are the World

2010年6月3日

I love Rock n’ Roll、Beat it、Like a Rolling Stoneと激しい曲が続いたので、今回はゆったりとした曲調の作品を取り上げたい。ご存知、We are the Worldだ。

We are the Worldはアフリカの貧困解消のキャンペーンソングとして1985年に発表された。作詞作曲はマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチー。全米ポップス界のトップスターたちが集結してレコーディングを行った。そのうちの一部を挙げると、マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーのほか、スティービー・ワンダー、ポール・サイモン、ケニー・ロジャース、ティナ・ターナー、ビリー・ジョエル、ダイアナ・ロス、ディオンヌ・ワーウィック、ウイリー・ネルソン、ブルース・スプリングスティーン、ダリル・ホール、ヒューイ・ルイス、シンディ・ローパー、ボブ・ディラン、レイ・チャールズなど。

はじめて聴いたとき、本物の歌手とはここまですごいものなのかと心底驚嘆した。歌詞の内容も中学や高校の英語授業で合唱するのに最適である。英語教師の皆さん、いかがでしょうか。えっ、もうやってるって?

以下、歌詞の前半部分をご紹介しておく。

There comes a time
When we head a certain call
When the world must come together as one
There are people dying
And it’s time to lend a hand to life
The greatest gift of all

We can’t go on
Pretneding day by day
That someone, somewhere will soon make a change
We are all a part of
God’s great big family
And the truth, you know love is all we need

[Chorus]
We are the world
We are the children
We are the ones who make a brighter day
So let’s start giving
There’s a choice we’re making
We’re saving our own lives
It’s true we’ll make a better day
Just you and me

この曲はゆったりとしたテンポなので、これまでの曲とは違って、カタカナ英語でもなんとか歌えてしまうかもしれない。だが、こうした曲であるからこそ、ひとつひとつの発音を大切にして、できるかぎり正確な英語で歌いあげたいものである。

さてここからは、サビのコーラス部分の最初の2行

We are the world
We are the children

の発音について、詳しく検討してみることにしよう。

まず、We are the worldだ。

We are the worldと「ウィアーザワールド」というカタカナ発音との最大の違いは、Weとworldのwの発音だ。どちらも同じ音で、「ウ」と「ワ」ではない。クチビルをキュッと強く強くすぼめなければならない。日本語の「ウ」はそうしたクチビルの「すぼめ」が弱く、半開きのままだ。これでは英語のwの音にならない。worldの「ワ」も同様だ。まずクチビルをキュッと強くすぼめてから-orldの部分に移行しなければならない。無理にカタカナで書くと「ゥオァ」という感じだ。

つぎの-orだが、これはher, bird, churchの-er, -ir, -urとまったく同じ音である。そのほかearthやheardの-ear、journalやjourneyの-ourも同じ音だ。同じ音なのに、-or, -er, -ir, -ur, -ear, -ourとスペリングがこれほど違うなんて、英語学習者にとってとんでもなく迷惑な話だが、それが英語の表記というものである。

この-or, -er, -ir, -ur, -ear, -ourで表される母音は、イギリス発音とアメリカ発音とで違う音になるものの代表格である。

イギリス発音のWorldの-orは日本語の「アー」よりもちょっと「オー」よりといったところ。日本人にとってそれほど難しい音ではない。ただしもう一つの「アー」との区別が重要だ。

いっぽうアメリカ発音の-orは日本語にない「そり舌母音」と呼ばれるものである。ちまたでは「巻き舌」と呼ばれているものだ。一部の日本人にとってはこの巻き舌ができると「かっこいい」らしく、たとえば矢沢栄吉などは日本語で話しているときでもこの音を用いようとしているようだ。

「そり舌母音」には2種類の発音方法がある。ひとつは「巻き舌」の名のとおり舌を巻き上げる方法。もうひとつは、舌は巻かずに舌の奥の両側を盛り上げるようにして出す方法だ。どちらも実際の音は同じように聞こえる。

余談になるが、母音というのは発音体系のなかでも、いわゆる「お国なまり」が最も色強く出るところである。日本語でいえば、東北方言が「サススセソ」と聞こえるのは「イ」と「ウ」の母音体系が共通日本語とは異なるからだ。ちなみに私は大阪方言を母語にするものだが、大阪方言の母音体系は総体的に「ゆるく」、ほとんどがアイマイ母音化する。すでに30年以上も東京で暮らしているのだが、それでも自分の発音を録音して聞いてみると母音のゆるさは明らかである。こと母音体系についてはまさに「三つ子の魂、百まで」なのである。

さらに余談になるが、「巻き舌」を多用する方言は中国語にもある。北京方言がそれである。なんでもかんでも「巻き舌」化することで有名だ。いっぽうフランス語のパリ方言では「巻き舌」のかわりに喉の奥のほう(喉チンコ)を鳴らしてr音を発音する。パリジャンにとってはそれが「イキ」なのだろうけれど、ヘンな音である。

このように、母音の音色についてはそれぞれの「お国なまり」が出るのは仕方がない。実際、アメリカ国内でもドイツ語系の人はドイツなまり、イタリア語系の人はイタリア語なまり、スペイン語系の人はスペイン語なまりの母音体系で英語を話している。国連などの国際機関にいけば、さらに多種多様な「お国なまり」の英語母音体系を聴くことができる。

したがってアメリカ式の「巻き舌」母音に強くこだわるのは基本的に無意味である。もちろんできてもよいのだが、できないからといって英語が通じないわけではないし、正式の英語でないというわけでもない。

最後のポイントは、worldのlとdだ。「ルド」とは似ても似つかない音である。

まずlの音は「ル」とは違って舌を上あごで「はじく」ことがない。舌を上あごにくっつけたまま息を両横から抜いて音を出す。「ル」ではなく「ウ」に近く聞こえるかもしれない。練習としては、舌を上あごにくっつけたまま「あいうえお」といってみればよい。なんだか変な面白い音が出ると思うが、それがlの音調だ。

その舌の位置のままでdの音に移る。というのもdを発音するときの舌の位置はlと同じだからだ。こうした際のdはそのあとに舌をはじくことがなく、そのまま息を飲みこむ感じになる。つまり音はほとんどなにも出ない。

これらのことをまとめてworldの音を無理にカタカナで書くとすると、「ワールド」よりは「ゥオァーウ○」というイメージに近い。

つぎのWe are the childrenで気をつけなければならないのがchildrenの発音だ。

最初のch-という子音は日本語の「チ」にきわめて近いので、日本語の発音を流用すればよい。なんでもかんでもパーフェクトにしようとするのは間違っている。私たち日本人にとって英語は所詮外国語である。どうあがいてもパーフェクトにはならない。

つぎの-iについては日本語の「イ」よりも少し緩めで、少しだけ「ウ」や「エ」に近い音だとイメージしてほしい。

childrenのldの音については前述のworldの説明と同じ。

つぎの-renだが、「レン」というよりも「レヌ」と「ルヌ」のあいだといったイメージのほうが近いかもしれない。大事なことは最後のnが鼻母音化しないこと。ちゃんと舌を上あごにくっつけて最後を締めたい。

Categories: ことのは道中記 日本人の英語教育