成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

World Englishes

2011年1月10日

先の道中記では、英語をベースとする国際共通語としてGlobishを取りあげた。その最大の特徴は世界中のさまざまな英語の共通部分だということである。世界のさまざまな英語でなり合った部分のみをグローバルコミュニケーションのスタンダードツールにしようというのである。

これに対して、共通部分ではなくさまざまな英語をそのままグローバルコミュニケーションツールとしてすべて認めてしまおうという考え方もある。それがWorld Englishesである。厳格な標準化を設定することはメリットより害のほうが大きいとして、世界の人々がそれぞれの文化やものの考え方にあわせたかたちで多様な英語を使っていけばよいという考え方である。効率化より多様性を重視する近年の思想を基盤とするものであり、ヨーロッパやアジアを中心に世界中で広まりつつある。詳しくは、『世界の英語を歩く』(本名信行、集英社文庫)、World Englishes (Andy Kirkpatrick, Cambridge University Press)などをみてほしい。

Japanese Englishを提唱している私自身は当然ながらWorld Englishes派であるが、しかしNative Englishという単一規範を否定して複数のEnlishesを前提としている点において、GlobishとWorld Englishesは基本的に同じものである。違いはそれが最大公約数的か最小公倍数的かにすぎない。共通の対抗相手は同じくNative Englishである。

World EnglishesとNative Englishを日英翻訳から考えると、重要なことは翻訳の最終目標が異なるということである。これまでの日英翻訳の最終目標はNative Englishであった。そのため日本人の日英翻訳は本質的に二流であるとされ、日本人翻訳者がどんなに習練を積んでもネイティブ翻訳者にはかなわないとされた。

しかし日英翻訳の最終目標がWorld Englishesであれば日本人が書く英語はネイティブの書く英語と同価値となる。したがってクオリティさえ高ければ日本人の書く英語だからといって必ずしも二流とはいえない。実際、多くのアジア諸国ではそうした意識が十分に浸透しており、それぞれのLocal EnglishがNative English以上に尊重されている(詳しくは上記2冊を参照)。この点においては日本は極端な後進国である。

私見では今後の日英翻訳の目標はWorld EnglishesとNative Englishの二本立てにするのが望ましい。英語ネイティブ向けの日英翻訳ではNative English、英語ノンネイティブ向けの日英翻訳ではWorld Englishesを最終目標とすればよい。実際にはグローバルコミュニケーションの大半が英語ノンネイティブのあいだでおこなわれているから、日英翻訳の中心はNative EnglishでなくWorld Englishesになることだろう。

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