「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」を英語にすると

2011年8月10日

「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」

ご存じ、『源氏物語』の出だしです。『源氏』には以下の2つの有名な英訳があります。

At the Court of an Emperor (he lived it matters not when) there was among the many gentlewomen of the Wordrobe and Chamber one, who though she was not of very high rank was favoured far beyond all the rest; (Arthur Waley)

In a certain reign there was a lady not of the first rank whom the emperor loved more than any of others. (Edward G. Seidensticker)

いずれも名訳とされていますが、訳出の方法はまったくちがいます。Arthur Waleyの訳のほうは、日本のことを知らないイギリス知識人を想定読者としており、たとえば和歌のやりとりのシーンなどは訳せないものとしてすべて削除しています。原文に忠実な翻訳というよりもイギリス人にとってわかりやすい読み物として描くというスタンスです。一方、Seidenstickerのほうは原文に忠実な翻訳らしい翻訳です。私たち日本人としてはこちらのほうが読みやすいですね。

ちなみにWaley訳では、イギリス人には和歌など理解できない​し、そもそも和歌のよさは英語に訳せないとして、「源氏」のなか​の和歌の部分についても、最初から全部カットしてあるそうです。​こうした大胆な処理に対して、当時の国文学者たちは「源氏」を冒​涜するものだとして、ずいぶんと声高に批判の声をあげたそうです​。でも、その後に実際の読者から絶賛の声が出たことで、そうした​批判も収まっていったそうです。面白いですね。

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