「それを言っちゃあ、お仕舞いよ」を英語にすると

2011年8月23日

ごぞんじ「男はつらいよ」(It’s Tough Being a Man )のフーテンの寅さんのセリフである。

「男はつらいよ」シリーズは決して「ほのぼの」系映画ではない。それどころか、かなり辛口の映画である。フーテンの寅は基本的に世間のやっかいものだ。まともな職にもつかずにいいかげんな人生をおくっている「フーテン」である。いっぽう腹違いの妹のさくらが嫁いだ諏訪家は、まじめな庶民の家だ。寅とさくらの叔父にあたる車竜造(草団子屋の主人)の家も同じである。いずれも地に足のついた、したがって面白くない地味な生活を営々として営んでいる。その諏訪家や車家に20年ぶりに突然フーテンの寅がやってくるというのが、このシリーズの発端である。

寅さんがさくらと叔父夫婦の家に立ち寄ると、まじめに働いている人間を茶化す、ひどい言動をする。そこでおじさんなどが怒ってケンカとなり、「出ていってくれ」というと、寅さんがこのセリフを発するのである。つまり、このセリフに含まれている含意はこういうことだ。「たしかに俺はいいかげんでやっかいな、一般社会(ここでは家庭がメタファーになっている)にとって、お荷物的な存在である。でも、だからといって一般社会から除外するというのは、いきすぎではないのか」。その主張を除外されるほうが自分から指摘するのだから、ある意味では自分勝手もいいところの発言なのだが、しかしその自分勝手さが渥美清という名優のコミカルな演技によって、ある種の魅力へと昇華されているのである。わたし自身はフーテンの寅という存在はずっと好きではなかった。それが40を超えたころから、なんだか受け入れられるようになった。ふしぎなものだ。

さて、英語である。サイトをしらべるとセインというアメリカ人が次のように訳しているそうだ。

That’s it. You’ve gone too far.

That’t it.は「それでおしまい(にして)」の意味。You’ve gone too far.は「やりすぎ」。一見するとよさそうだが、上に説明した含意が含まれていない。たんに言葉の表面づらを英語にしただけにみえる。本当に伝えたいことがわかっていない。

ではどうするか。たとえばつぎのようなものはどうか。含意がうまくは出ていないと思うが、少しはましかもしれない。

You shouldn’t say that. You’ve stepped over the line.


(これまでの「日英翻訳1日1題」については「成瀬由紀雄ホームサイト」をご覧ください)

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