「地球か。何もかも、みな懐かしい」を英語にすると

2011年8月24日

宇宙戦艦ヤマトの初代船長、沖田十三の名セリフである。沖田の人物像についてはウィキペディアをみてほしい。以下、ウィキペディアの一節のみをご紹介しておく。「無事イスカンダルで放射能除去装置コスモクリーナーDを受け取り、地球への帰還の途につく間も病床を離れることは無く、地球への帰還を間近にして、艦長室の窓よりその姿を眺めながら「地球か……何もかも皆懐かしい」という台詞を残して、力尽きる。」 

「宇宙戦艦ヤマト」は太平洋戦争のメタファーである。実際の大和は日本を救うことなく太平洋に沈んだが、このヤマトは地球を救うことに成功する。その陣頭指揮に立ったのが「万に一つの可能性を発見したらそれを信じ、沈着冷静に行動する人」沖田十三だ。これはその沖田の最後の言葉である。もちろん、このセリフに含まれている本当の意味は「日本か。何もかも、みな懐かしい。」 ちなみに「宇宙戦艦ヤマト」には英語版もあるが、あまりヒットしていない。さもありなん。さて、どう英語にするか。

まず「地球か……」の部分だが、自分自身に語りかける独り言であるので、Earth, でよいように思う。

問題は「何もかも、みな懐かしい」の「懐かしい」である。これにぴったりとあてはまる英語表現は存在しない。というよりも、「懐かしい」にあたる感情そのものが英語にはないといったほうがいい。

辞書をみると、brings back memoriesといった言い回しが載っているだろうが、これは直訳の「思い出をもたらしてくれる」に近い感覚だ。けっして「懐かしい」ではない。たとえば「懐かしい人にあった」という気持ちを、この英語で表すことはできない。あるサイトでは「基本的な発想の違いとして、「懐かしい」 は、自分の方が昔の思い出の中に溶け込む感覚で、英語的表現は、思い出の方が今ある自分にやってくるというニュアンス。どうやら、「自我」 の捉え方に違いがありそうな気がする。日本人の 「懐かしい」 という感情は、自我を超えてしまっているようなのだ。」と述べているが、これは卓見である。そのとおりだと思う。ということで、Earth, everything brings me back memories. / Earth, you bring me all fond memories.などとすると、まったく感性の違うものになってしまう。いわば誤訳に近い。

では、どうするか。「懐かしい」という心情あふれる日本語表現には、やはり心情あふれる英語表現を対応させるべきである。その第一候補となるのが、missという語だ。I miss you.とは「私はあなたを失ってとてもさびしい」という心情の暴露である。今回は、かなりずれてはいるが、この表現を利用したい。

Earth, I missed you for ages.

過去形を使うことで、その心情が過去のことであることを示す。ヤマトのイスカンダルへの旅は地球時間では1年だが、宇宙的にいえば往復29万6千光年の旅であるからfor agesがよいと思う。

(これまでの「日英翻訳1日1題」については「成瀬由紀雄ホームサイト」をご覧ください)

Categories: 新着情報