成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

「愛している」といえないワケ

2012年3月29日

今日の朝トレのあとの雑談で、アメリカ人のカップルはしょっちゅうI love you.といいあっているのに、日本人のカップルは相手に「愛している」といわない(特に男性のほう)のはなぜだろうか、という話題になりました。

ひとつの要因には、文化的な差異が挙げられるでしょう。アメリカでは、あらゆることを言語化して相手に伝えることがよいことであり、また必要なことであるという考え方が一般的です(もちろんあくまで一般論ですが)。いっぽう日本では、お互いにわかっていることについてはなるべく言語化(コト挙げ)しないほうがいいという考え方が根づいています(これもあくまで一般論です)。そのため、たとえお互いに好き同士でも、それを敢えて口にするのは避ける傾向が強いのだといえます。

しかし私の考えでは、日本人カップルが相手に「愛している」といわないのは、そうした日米の文化的差異のためだけではないと思います。一番の理由は、「愛する」という日本語が、まったく日本語らしくないからではないでしょうか。

「愛」という言葉は、もともと仏教用語でした。それを明治初期に、西欧のloveやamourの翻訳語として転用しました。このときはじめて、日本人は男女の恋愛感情のことを「愛する」と表現するようになったわけです。

しかし、誕生してからまだ100年少ししか経ていないものですから、「愛」という言葉は、いまでも私たちにとってかなり違和感のある言葉です。ですから、私たちはよほどのことがないかぎり、相手に対して「愛しています」とはいえません。そういって平気でいられるとすれば、その人はかなり日本語の感性の鈍い人だといってもよいでしょう。

いっぽう、英語のloveは昔からあるきわめて自然な表現であり、また恋愛感情だけでなくもっと幅広い意味を持ちます(I love my family. I love my parents. etc.)。さらに人間に対してだけでなく他の事物にも使えます(I love my works. I love watching TV. etc.)。そうしたなかでのI love you. の利用ですから、それを頻繁に使っても言葉としてまったく違和感はないはずです。

ようするに、日本語の「私はあなたを愛しています」「僕は君を愛している」と、英語のI love you.とは、言語的背景からみて、決して同じ意味あいのものではないということです。したがって、アメリカ人のカップルがしょっちゅうI love you.といいあっているのに日本人のカップルが「愛している」とはいわないのはなぜか、という設問自体が、そもそも成り立たないといってもよいでしょう。

それでは、日本人のカップル(特に男性)は、相手に対して自分の気持ちを言葉にして伝えなくてもよいのでしょうか。私はそうではないと思います。相手のことを大切に思っているというその気持ちは、やはり言語化して相手に伝えるべきではないでしょうか。ただし、それは「僕は君をとても愛している」といった直訳調の日本語ではないはずです。それでは、あまりにうそっぽい。いわれたほうもそんなに嬉しくないのではないでしょうか。

自分なりに、自分の相手に対する気持ちをうまく伝えるための日本語らしい表現を考えて、それを使うべきだと思います。たとえばですが「一緒にいてくれてほんとにありがとう」なんていうのはどうでしょう。「君のことを大切にしたいといつも思っている」なんていうのもいいかもしれません(ちょっとくさいかな…)。それ以外にもいろいろな言い方があると思います。どうか考えてみてください。

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