成瀬由紀夫コラム ことのは道中記

吉本隆明の仕事は翻訳不能か

2012年4月8日

今日(2012.4.8)の日経新聞の23面の「危機と日本人」という特集で山折哲雄が吉本隆明について「党派退けた『自立』の思想」というタイトルでエッセイを書いている。これは秀逸である。ぜひ読んでほしい。

山折は吉本の仕事を、徒党を組むことに対する徹底的な嫌悪のもとに、西欧の知識も含めてすべてのことを自分自身で解釈して咀嚼し、それを糧として自らの思想を生み出し、そして、それを自らの言葉で表現していったというのが、山折の吉本観である。これは正しいと私は思う。

興味深いのはそのうえで山折は、吉本の仕事はゆえに翻訳ができないと述べ、それは柳田国男や折口信夫の仕事と酷似していると論じ、岡倉天心、内村鑑三、新渡戸稲造のような「自立」した英語での作品と同列であるという。そしてさらに、そうした仕事は「結局日本人以外の誰もが手をつけることができない仕事」であると結論づける。

以下、いくつか翻訳にからむ部分だけ抜き出しておく。「右から左に翻訳されるような作品を、氏はそもそものはじめから書こうとはしなかったということではないだろうか」「柳田や折口の文章もまた、容易には外国語に置きかえることのできない性格をもつものであったことに気付く。したがってまたかれらの代表作が全文きちんと翻訳されたという話もきかない」「世は挙げて、外国産の思想を異口同音に日本語に置き換える仕事に没頭していたからである」。

いかがだっただろうか。翻訳者、翻訳研究者の私としては、まさに突っ込みどころが満載である。このあと、少しずつこのホームページで突っ込んでいきたいと思っている。

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