日本人のための英語ライティング講座

2011年9月15日

(これは私のつくった講座テキストである『日本人のための英語ライティング講座』からの抜粋です。ワード原稿からの転載のためにレイアウトの乱れなどが数多くみられることをご容赦ください。完全版をご覧になりたい方はJEIアーカイブからPDFファイルをダウンロードしてください。)


日本人のための英語ライティング講座

<第1回>

 

はじめに

 

英語ライティング、自信ありますか?

「はい!」とはっきり答えられる日本人は、とても少ないはずです。

英語が書けないのではありません。いちおうは書けるのです。文法規則も守っているつもりです。でも、自信がない。

そうした日本人が、これからは自信をもって英語が書けるようになることを、本書は目指しています。

ネイティブと同じように英語を書けるようになることが目標ではありません。そんなこと普通の日本人にできるはずがありません。できないことを目指すのは愚かなことです。

わたしたちは日本人ですから、世界中の誰にもわかりやすい日本人として最良の英語を書けるようになればよいのです。

ではそのためにはなにをすればよいでしょうか。

第一に、敵をよく知り、己をよく知ることです。ここでの敵とは英語のこと、そして己とは日本語のことです。この2つの言語の特徴と違いをよく理解して、そのうえで英語ライティングのための最も大事なポイントを確実におさえておけば、まさに百戦危うからずです。

第二に、道具をそろえること。何かをつくるためには道具がいります。英語ライティングでも同じです。でも学校英文法と辞書という道具だけでは、自信をもって英語を書くには足りません。もっともっと使い勝手のよい新しい道具がわたしたちには必要です。

そして第三に、よく練習をすること。練習をしないでうまくなったプレイヤーはいません。みんな練習に練習を重ねてうまくなっていくのです。英語ライティングも同じこと。書いて書いてまた書くことこそが上達への近道です。

では、はじめましょう。レッスンは4回。それぞれに解説文と練習問題がついています。最終目標は、自分が述べたいことについて英語プレゼンテーションの原稿がきっちり書けるようになること。大丈夫。あせらず一歩一歩積み重ねていけば、かならず目標に到達できます。頑張りましょう。

 

☆☆☆

 

Lesson 1

センテンスの7つの「つぼ」

 

まず英語のセンテンスをつくるための「つぼ」をおさえておきましょう。

どんなことにも基本となる「つぼ」が必ずあります。たとえば野球やゴルフでのスイングのつぼは体の軸がぶれないこと。体の軸がぶれてしまうと、いくら頑張ってバットやクラブを振ってみてもよい結果は得られません。

英語ライティングにもそういった大事な「つぼ」がいくつかあります。ここではそれをまとめてご紹介します。こうしたつぼをはずさずに学習すれば、上達スピードが格段に上がります。逆につぼをはずしてしまうと、いくら頑張って勉強してもなかなか上達しません。

 

☆☆☆


<つぼ1>

英語の黄金律は、SVO構文

 

SVO文型は英語センテンスの黄金律です。

英語の世界観をそのまま体現化したものだからです。西欧世界では「実体」「属性」「関係」が世界を構成するという世界観が定着しています。「実体」とは個々の事物のこと。その実体が「属性」を持ち、他の実体との「関係」を持つのです。

英語のセンテンスもこの世界観のもとにあります。「実体」の表現がSubjectとObject、そして「関係」の表現がVerbです。つまりSVO文型とは「ふたつの実体のあいだに何らかの関係が生じている状態」を示すものなのです。

こうした英語的な世界観が日本的世界観とずれてしまう例をいくつかご紹介しておきましょう。

 
  • Writing provides pleasure. (ライティングは楽しい。)
 

ハーバード大学ビジネススクール入学者65人の入試エッセイを集めた65 Successful Harvard Business School Application Essaysという本があります。ここにはハーバード大学ビジネススクールに入学を許された世界中の学生たちのエッセイが掲載されています。当然のことながら、じつにさまざまなかたちの英語があるのですが、そのなかで、出だしのセンテンスに「S is to …」のかたちを使っているのは、なんと日本人応募者ただ一人です。

 
  • My immediate goal after getting an MBA is to continue working for a global consulting firm and to help foreign companies enter and excel in the Japanese market.
 

もちろん、これで通じます。通じるからこそ、彼女はハーバード大学ビジネススクールに晴れて入学できたのです。

ただ、世界中の学生のなかでこのかたちをエッセイの出だしにもってきたのが日本人だけだという事実は、覚えておいたほうがよいでしょう。

ここからわかることは、日本人が英語らしく英語を書く際には、「AはBである」をただ単純に“A is B.”に置き換えるといった考え方をやめたほうがよいということです。

 

☆☆☆


<つぼ2>

SVC構文は、英語の名脇役

 

SVOが英語の大スターだとすれば、SVCは英語になくてはならない名脇役です。

SVCの基本的用法は「SについてのCによる説明」です。何かの事象や現象や概念を説明する際には、つねにSVCが大活躍することになります。

たとえば

 
  • GDPとは、その国や地域で一定期間(1年間など)に生産された付加価値(最終生産物)の合計額のことです。
 

という文は、以下のように英語にすることができます。

 
  • A nation’s GDP is the total additional value (final product) that a nation or area produce during a set period (usually one year).
 

ここで日本人が特に気をつけなければいけないのは、日本語の「Aは~である」をつねにSVCとして処理することは間違いということです。

日本人の書く英語にはSVCがとても多いのが特徴です。たとえば、

 
  • 本レポートは最近の若者の消費動向についてまとめたものである。
 

という日本語文を、そのまま英語にすると

 
  • This report is the summary of consumption trend of young generation in Japan.
 

のようになりがちです。「本レポートは~である」とあるので、This report is …というわけです。しかし英語としては、

 
  • This report discusses the consumption trend of young generation in Japan.
 

のほうが自然です。上記の日本的な英文は、英語としては少しばかり不自然です。
また、たとえば

 
  • 表1は5社の3年間の売上高と利益を示したものである。
 

という日本語を

 
  • Table 1 is the presentation of Company A’s sales and profit of the last three years.
 

のような英語にするのは、あまり英語らしくはありません。そうではなく、以下のようなSVO構文のほうが英語らしいといえます。

 
  • Table 1 presents Company A’s sales and profit of the last three years.
 

うえのSVC構文の英文が「間違っている」のではありません。通じるのですが、書き言葉の英語としては、どこかしら違和感があるということです。「らしくない」のです。

「A(と)は~(こと/もの)である」イコールSVC構文という感覚は、日本人にきわめて強く根づいているようです。
ハーバード大学ビジネススクール入学者65人の入試エッセイを集めた65 Successful Harvard Business School Application Essaysという本があります。ここにはハーバード大学ビジネススクールに入学を許された世界中の学生たちのエッセイが掲載されています。当然のことながら、じつにさまざまなかたちの英語があるのですが、そのなかで、出だしのセンテンスに「S is to …」のかたちを使っているのは、なんと日本人応募者ただ一人です。

 
  • My immediate goal after getting an MBA is to continue working for a global consulting firm and to help foreign companies enter and excel in the Japanese market.
 

もちろん、これで通じます。通じるからこそ、彼女はハーバード大学ビジネススクールに晴れて入学できたのです。
ただ、世界中の学生のなかでこのかたちをエッセイの出だしにもってきたのが日本人だけだという事実は、覚えておいたほうがよいでしょう。

ここからわかることは、日本人が英語らしく英語を書く際には、「AはBである」をただ単純に“A is B.”に置き換えるといった考え方をやめたほうがよいということです。

 

☆☆☆


<つぼ3>

「SVO/SVCプラスModifier」が英語センテンスの基本

 

SVO/SVCのほかに忘れてならないセンテンスの要素が、もうひとつあります。Modifier(修飾語句)です。S, V, O, CそしてこのMが英語センテンスの基本要素です。

Modifier(修飾語句)のうち、SubjectやObjectの名詞(句・節)につくものを「形容詞的修飾語句」または「形容詞チャンク」と呼びます。一方、動詞またはセンテンス全体につくものを「副詞的修飾語句」または「副詞チャンク」と呼ぶことにします。

基本的に、英語のModifierは修飾語する語句の後方に位置します。一方、日本語のModifier(連体修飾語句、連用修飾語句)は、修飾語する語句の前方に位置します。

言語学者の調べによると、世界のすべての言語のなかで英語のように修飾語句が被修飾語の後方に置かれる言語と、日本語のように修飾語句が被修飾語の前方に置かれる言語とは、ちょうど半々ぐらいの割合なのだそうです。おもしろいですね。

英語ネイティブは、SVOだけの短いセンテンスのことを“choppy”(ぶつ切り)だといって、なるべく避けようとします。なにしろ、英語ではSVOのうしろにいくららでもModifierをつけられますので、長くしようと思えば、いくらでも長くできるのです。お役人や法律家や学者の書く文章では1センテンスが40ワードも50ワードもあるものも珍しくありません。ところがあまりに長すぎると、こんどはturgid(大仰な)、bloat(ふくれあがった)などといわれることもあります。やっかいな話なのです。

対して日本語の文では、短いことはそれほど嫌われません。夏目漱石の「我輩は猫である。名前はまだない。」が、そのよい例です。こうした短い文づくりの感覚を英語を書くときにも持ち込むと、短すぎる英語センテンスを書くケースが多くなります。

したがって英語らしい英語を書くためには、センテンスの長さを、SVO(C)プラスModifierをつかって、短すぎず長すぎず、それなりの長さにすることです。

 

☆☆☆

 

<つぼ4>

「冠詞」「単複」はモノ(名詞)の認識判断の表現

 

世界はさまざまな「モノ」と「コト」で成り立っています。そうしたモノゴトを捉える際、英語は「モノ」中心に捉え、いっぽう日本語は「コト」中心に捉えています。

そのため、文法上は同じく「名詞」と呼ばれていても、英語と日本語では、その性格がまったく違います。

具体的にいえば、英語でのモノ(名詞)の捉え方のほうが、日本語でのモノ(名詞)の捉え方よりも、圧倒的に細かいのです。

次の3つの類別方法をみてください。これが英語ネイティブがモノ(名詞)を捉えるときの認識方法です。英語ネイティブが名詞を考える際には、この3つの類別を順番どおりに考えていくのです。

 
  1. 既知か、未知か
  2. 可算か、不可算か
  3. 単数か、複数か
 

まず、その名詞が既知か未知か、つまりコンテクストのなかで書き手/話し手と読み手/聞き手の両方がすでに知っているのか、そうでないのかを考えます。

もし知っていると判断すれば、その名詞表現をtheからはじめます。名詞にtheをつけるのではありません。この時点で名詞はまだ書かれていません。まだ存在しないものに何かをつけることは不可能です。敢えていうならば、英語ネイティブは「theに名詞をつける」のです。

つぎに、その名詞を数えられるもの(可算)と捉えるか、数えられないもの(不可算)と捉えるかを考えます。ここでも間違っていけないのは、名詞の種類として可算名詞、不可算名詞という区別があるのではないということです。たとえばlawという名詞を考えると、これを個別の法規や規則として捉えれば、当然のこととして数えられます(可算)。しかしこれを法という抽象概念として捉えれば、それは基本的に数えることができません(不可算)。lawという名詞自体が可算であるか不可算であるかということではなく、可算か不可算かは、あくまで使い手の認識のあり方によるのです。

一般的にいえば、抽象概念は具象物よりも不可算である可能性が高いのですが、抽象的か具象的かの区別だけで可算か不可算かが決定的に決まるわけではありません。たとえばideaは抽象的ですが、数えられるものとして捉えられることが多いのです(an idea, good ideas)。いっぽう、あきらかに具象物であっても「~というもの」といった抽象的概念として捉えれば、数えられないものになります。the definition of chairのchairは「椅子というもの」であり、抽象概念かつ不可算です。

最後に、名詞を数えられるもの(可算)と捉えた場合には、それを1つとして捉えるのか、2つ以上として捉えるのかを考えます。それを1つとして捉え、さらにtheからはじまっていない場合には、aからはじめます。2つ以上として捉える場合には、theがついていようといまいと、最初には何もつけないで、名詞の最後に-sや-esをつけます(あるいは名詞全体のかたちを変えることもあります。mouse→mice)。

既知か未知か、可算か不可算か、単数か複数か、という3つの認識判断を、英語ネイティブは、すべての名詞において行っているのです。

いっぽう、日本語ネイティブには英語ネイティブのような細かな名詞認識はありません。コト中心の言語である日本語では、英語のような事細かな名詞区分など、なかなか想像しにくいものなのです。

日本語ネイティブが日本語の認識形式をもとに英語を書くときには、どうしても名詞の表現方法が精密ではなくなります。日本語には英語のような細かな名詞の認識形式がないのですから、当たり前のことです。

したがって、英語らしい英語を書くためのポイントは、日本語の認識ではなく英語の認識にしたがってモノ(名詞)の処理をすることです。

 

☆☆☆


<つぼ5>

「時制」は「時間」ではない

 

まずなによりも「時間(time)」と「時制(tense)」とをきっちり区別して理解しなければなりません。「時」とは物理的な概念です。対して「時制」とは文法的な概念です。この2つは根本的に違うものです

「時制」は言語ごとに異なります。「時制」を持たない言語はいくつもあります。たとえば古代アラビア語、ヘブライ語、中国語、そして日本語にも「時制」という文法概念はありません。これらの言語は物理的な時間関係を「アスペクト」(相)という文法概念で表します。日本語では「~だった」「~でした」は、過去ではなく完了状態を表す文法形式なのです。すでに完了しているのですから、それはすなわち過去のことなのです。

さらに日本語の場合の「完了」は、物理的完了だけでなく、心理的完了をも含みます。たとえばバス停でバスをずっと待っていて、やっと遠くにバスがみえてくれば「あっ、バスがきたよ」といいますね。でも、実際にはバスはまだきていません。これは、バスがくるという事態が心理的にはすでに完了しているからです。もしも心理的にまだ完了していなければ、「あっ、バスがくるよ」ということでしょう。

「進行形」についても考えてみましょう。進行形といえば「~ている」という表現が思い浮かぶでしょうが、これも間違いです。英語の進行形と日本語の「~ている」は一対一対応はしません。

英語の進行形が持っている第一の機能は「動きの表現」です。いま何かが動いている、あるいは何かを動かしている、それを表現することが、現在進行形の基本的な役割です。いっぽう、日本語の「~ている」の持っている第一の機能は「存在の表現」です。何かがそこに「いる」ということです。

存在すれば、当然のころながら持続します。その持続の意味が進行形との意味との重複部分を生み出します。そこで英作文の際に進行形に「~ている」をあてるという一種の慣習ができました。ところが「内容がわかっている。」「その件は知っている。」などの表現には、持続の意味はあっても動きの意味がありません。そのため、これらを英語にする際には、進行形を使うことができません。

したがって、英語らしい英語を書くためのポイントは、日本語の「~る」「~た」「~ている」などを英語の現在形、過去形、進行形などに簡単に一対一対応させないことです。

 

☆☆☆


<つぼ6>

日本語の基本は「トピック・コメント」構文

 

日本語と英語の最大の違いをひとつだけ挙げるとすれば、日本語は基本的に「トピック・コメント」構造の言語であり、いっぽう英語は「主体・客体」構造の言語だということです。この違いはまさに本質的で、それが日本人の英語学習をきわめて難しいものにしているのです。詳しく説明しましょう。

まず、英語からです。英語の基本構造が「主体・客体」構造だいうのは、じつは「つぼ1」で述べたSVO構文の説明と同じことです。そこでもう一度、ここで説明を繰り返しておきます。

SVO文型は英語センテンスの黄金律です。英語の世界観をそのまま体現化したものだからです。西欧世界では「実体」「属性」「関係」が世界を構成するという世界観が定着しています。「実体」とは個々の事物のこと。その実体が「属性」を持ち、他の実体との「関係」を持つのです。

英語のセンテンスもこの世界観のもとにあります。「実体」の表現がSubjectとObject、そして「関係」の表現がVerbです。つまりSVO文型とは「ふたつの実体のあいだに何らかの関係が生じている状態」を示すものなのです。

大事なことは、こうした英語の認識方法は決して普遍的なものではないということです。もう一度いいます。この世界を主体・客体の二項関係を中心にして捉える言語認識は決して普遍的ではありません。英語など近代西欧言語の持つ特性にすぎません。このことをまずしっかりと理解しなければなりません。

つぎに日本語の世界をみてみましょう。日本語の持つ世界観は英語のSVO構文に代表される二項対立ではなく「何かのモノゴトについて何かを述べる」という認識方法をとります。この認識方法を表現する言語構造が「~は~である(だ)。」です。これが「トピック・コメント」構造です。ちなみに「トピック・コメント」構造を基本とする言語は日本語以外にもたくさんあります。日本語だけが特殊なわけではありません。

日本語と英語のつながりを考えるうえにおいて、「トピック・コメント」構文は、きわめてやっかいな存在です。

なにしろ英語には「トピック」(題目)を単独で示す文法的マーカーが存在しません。その代わりに文法的な主語、つまりSVOのSubjectがトピックの提示を兼務しています。日本語の「~は」もまた主格補語である「~が」を兼務していますので、この点では英語のSubjectと似てはいます。しかし「~は」は「~が」以外の助詞(「~の」「~で」「~と」「~に」「~まで」など)や、さらには、時間表現(明日、朝など)までもトピック化することができます。

 
  • 象は鼻が長い。
  • あいつとはうまがあう。
  • それには気づかなかった。
  • 明日は打ち合わせだ。
 

このように日本語の「~は」は、じつに強力なトピックマーカーなのです。

こうした「~は」は、英語のSubjectと一対一対応しません。そのため翻訳の際にはなんらかの処理が必要となります。もちろん最良の方法はセンテンスを「まるごと」変換してしまうことなのですが、それがうまくできないときには、その内容を英語のSVOかSVCのかたちに押し込んでしまうというやり方もあります。

 
  • 象は鼻が長い。→ The Elephant has a long trunk.(SVO)
  • あいつとはうまがあう。→ I am compatible with him.(SVC)
  • 明日は打ち合わせだ。→ We have a meeting tomorrow.(SVO)
といった具合です。

こうすることで、ある程度の意味内容を写し取ることができます。ただし、そもそも「トピック・コメント」構文とは、話し手や書き手がなんらかの主観的判断を示すために発達したものです。客観的な格標示をおこなうことは、その本務ではありません。この点において、客観的な格標示を本務とする英語の文法機能とは異なるものなのです。したがって、トピック・コメント構文を英語に移し変えることには、本質的には不可能な部分があるのです。

日本人の負担の生活では「トピック・コメント」構文が圧倒的に数多く使われています。しかし学術文や報道文のように西欧的な客観性が望まれる場合には、「~が」をつかって英語のSVO的な構文を多用しています。この2つの構文をうまく使い分けることで、現代日本人は、日本と西欧という2つの異質の文明を自在に往来することができるのです。

したがって、英語らしい英語を書くためのポイントは、英語のSVO的な構造と、日本語の「トピック・コメント」構造とを、一対一対応させないことです。

 

☆☆☆


<つぼ7>

内容は同じでも、表現はさまざま

 

ひとつのアイデアを言葉にするとき、じつにさまざまななかたちで、表現するができるものです。たとえば、夏目漱石の『坊ちゃん』の冒頭の一文です。

 
  • 親ゆずりの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
 

を英語にすると

Since I was a child, I have been always losing something because of the reckless character inherited from my parents.

I have been always getting disadvantages since my childhood because I inherited from my parents a reckless character.

Because of an hereditary recklessness, I have been playing always a losing game since my childhood.

The recklessness I inherited from my parents has always been causing a loss since my childhood.

Since I was a child, the daringness inherent from my parents has always given me some troubles.

The boldness I inherited from my parents has always disadvantaged me since I was a child.

A great loser have I been ever since a child, having a rash, daring spirit, a spirit I inherited from my ancestors.

Ever since I was a child, my inherent recklessness has brought me nothing but trouble

などなど、さまざまな表現方法ができるものです。このうちのどれかが「正解」というわけではありません。それぞれの表現にそれぞれの個性と特徴があるのです。

また英語ネイティブの書き手は繰り返し表現が嫌いです。驚くほどに大嫌いです。ひとつのセンテンスのなかに同じ単語や表現を3回、4回と繰り返して使うことは、ほとんどありません。とにかくなんとかして別の表現に言い換えようとするのです。まるで、繰り返し表現はredundancy(冗長さ)そのものであり、それを避けれらないのは頭が悪いせいだと思い込んでいるかのようです。そうした彼らが敢えて繰り返し表現を使うのは、そこに特別の意味合いが含まれているときです。商品名や社名を何度も繰り返すのが、その一例です。

対して日本語ネイティブの書き手は、繰り返し表現がそれほど嫌いではありません。逆に、繰り返すことでわかりやすくなるのではないか、などと考えて、積極的に同一表現を繰り返すことさえ多々あります。そして、そのクセが英語を書くときにも発揮されると、同一表現が多い「頭の悪い」英文だとみなされかねません。

したがって、英語らしい英語を書くためのポイントは、センテンスのなかでの繰り返しを極力避けることです。

 

☆☆☆☆☆


Part 2

練習問題1

 

つぎの日本語で述べられていることを英語で表現してください。ただしすべてSVO(またはその派生形であるSV, SVOO, SVOC)構文を使ってください。

 
  • あと数分歩けば駅です。
  • 彼女は文章がうまい。
  • 文章の良し悪しは最初の1ページをみればわかるものだ。
  • プロの翻訳では一つのミスが命取りになる。
  • 今回の秋葉原の無差別殺人事件は大きなショックだった。
  • なぜあの男はあんなふうになってしまったんだろうか。<
  • 表1はA社のこの3年間の売上高と利益を示したものである。
  • これをみると売上高の急激な伸びと、一方で利益の伸び悩みがよくわかる。<
  • 今回の営業改善策の中心は営業部門と開発部門との協力体制の構築である。
  • 今期中にこの目標を達成できないようなら、かなりやっかいなことになる。
  • 新宿副都心線の開通で通勤がずいぶん楽になった。
  • 資源価格の高騰で発展途上国の人々の生活は深刻なダメージを受けている。<
  • 2008年6月段階で日本の個人消費はおおむね横ばいとなっている。
  • フランス政府は温暖化ガス排出を大幅に削減するための包括対策に乗り出す。
  • A社の2009年3月期の連結フリーキャッシュフローは800億円前後の黒字となる見通しだ。黒字幅は前期実績(230億円の黒字)の3倍強に拡大する。
  • 2008年6月発表の米農務省需給報告によると、2000年に30%超であった世界の穀物在庫率は2007年度には16%に急落し、直近では15%台で推移している。
 

 

練習問題2

 

つぎの日本語で述べられていることを英語で表現してください。ただしすべてSVC構文を使ってください。

 
  • 三角形の面積は底辺かける高さ割る2である。<
  • それってずいぶん面白そうだね。
  • 電車が遅れたというのが彼の口実だった。
  • 山田は単なるバカのようにもみえるな。
  • あなたの手は本当に冷たいですね。
  • 結局は万事うまく収まりますよ。
  • そのビルならここから歩いて10分ですよ。
  • 大事なことはパニクらないことだ。
  • 理由はただ一つ、今晩も仕事があるということです。
  • その学生はいつまでも黙っていた。
 

 

練習問題3

 

つぎの日本語で述べられていることを英語で表現してください。

 
  • 前期まで3期連続で赤字だったA社は今年は黒字に転換するとみられる。
  • ソフトウェア会社の収益が回復してきた。上場14社の95度の経常損益は、12社が増益、1社が黒字に転換する見込みだ。
  • 表5-1は今回の調査結果である。それによると日本の消費者の意識は大きく変わりつつある。
  • 環境を守るには利便性を多少犠牲にしてもかまわないとの回答が増えているが、こは20年前にはほとんど見られなかった消費者意識だ。<
  • 資源価格高騰で発展途上国の人々が大きなダメージを受けている。いっぽうで巨額の利益を得ているのが先進国の投機家たちである。
  • エンターテイメント部門の売上高は前年同期比で68%の増加となりました。これはXbox 360の需要が堅調に伸びていることによります。
  • 今年度の純利益は1億2400万ドルだった。これは前年度からみて8億8500万ドル、率にして88%の下落である。主な要因としては、売上高の減少と引当金の増加が挙げられる。
 

練習問題4

 

あなたが興味のあることがらに関する英語のテキストをつくってください。ただし合計で10以上のセンテンスをつくること。

 

例:日本人と英語、英語の公用語化について、生涯学習について、など。

 

 

☆☆☆☆☆


日本人のための英語ライティング講座

第2回

センテンスの7つ「道具」

 

 

Lesson 1ではセンテンスの「つぼ」をご説明しました。でも、たとえつぼがわかっていても、そのつぼをきっちりと押えることができなければ意味がありません。そこでLesson 2では、つぼを押える「道具」をご紹介します。これらの道具をつかって、英語のセンテンスをうまく組み立てていきましょう。

 

☆☆☆


<道具1>

チャンク「箱」とその並べ方

 

英語のセンテンスの基本は「ただ並べるだけ」。イメージとしては、いくつもの箱が順番に置かれているだけです。この箱のなかに「チャンク」が置かれます。そしてそれらは大きな箱のなかに収まっています。これが英語センテンスのイメージです。

英語センテンスをつくるための第一道具は、この「箱」です。この箱をまず用意します。そしてそのなかにふさわしい「チャンク」をポンポンと入れていきます。日本語とちがって英語の箱には後ろに何もつきません。ただポンポンと並べていけばよいのです。

チャンクを並べる順番の基本は次のとおりです。まずSubjectのチャンクを置きます。つぎにSubjectにくっつくModifierを置きます。それから(Predicative)Verbを置きます。そしてObjectを置き、それにくっつくModifierを置きます。

SubjectとObjectのチャンクを「名詞チャンク」、Verbのチャンクを「動詞チャンク」、SubjectとObject にくっつくModifierのチャンクを「形容詞チャンク」、そしてセンテンス全体にくっつくModifierのチャンクを「副詞チャンク」と呼びます。

これが英語センテンスの基本形です。この基本形から、さまざまな変化形が生み出されます。

第一に、Modifierとなるチャンクの中味が増量されます。たとえば、チャンクの中にさらに「第二のSVO」(節)が入ってくるかたちです。

第二に、新たな意味を付加するために、チャンクを基本の位置と異なる位置に置くことがあります。

基本ではない位置に敢えて置くのですから、それにはそれなりの理由があります。たとえば、センテンスの最初の位置に置くことで、そのチャンク内容を強調したい場合です(So passionate was his letter.)。またSVOのSがあまりに長くなるのを避けるためにSubjectの形容詞チャンクだけを後ろにまわすケースもあります(The time has come when I must decide my future course.)。あるいは、詩のセンテンスなどでは、音調をあわすためにチャンクの位置に移すこともあります。

こうしてチャンクの中味を増量し、かつ位置を基本とは異なるものにすることで、英語センテンスはその複雑さをどんどんと増していきます。

人間の思考や感情はとても複雑なものですから、センテンスも、ある程度複雑になることは仕方がありません。しかし、そうした必要性もないのに意味なく複雑になっている英語センテンスがあまりに多すぎます。残念ながら現代のネイティブ英語にもそうした悪文が目立ちます。私たち日本人が英語を書くときには、そうした無用な複雑さは真似ないようにしたいものです。

 

☆☆☆

 

<コラム>

受動態はトピック変換の道具

 

英語には日本語の「は」のような特定のトピックマーカーがありません。そのかわりにセンテンスの一番最初に置かれたものがトピックとして機能します。たとえば

 
  • Cromwell killed Charles.
 

だと、Cromwellがトピックです。「Cromwellについていえば、Charlesを殺した、あのヤツだ。」ということになります。

では殺されたCharlesのほうをトピックにしたいときにはどうするのでしょうか。Charlesを一番最初にもってくるのです。つまり

 
  • Charles was killed by Cromwell.
 

というわけです。

これが「受動態」の本来の役割です。受動態とはトピック転換のために用いられる手法なのです。したがって厳密にいえばCromwell killed Charles.とCharles was killed by Cromwell.を入れ替えることはできません。トピックが違うのですから。

なお、受動態はこのほかに

 
  1. 行為者が不明なとき(My bag was stolen.)
  2. 行為者を曖昧にしたいとき(It is decided that….)
  3. 客観性を装いたいとき(A new evidence was found.)
 

などの役割も担っていますが、これらの用法は受動態本来の役割ではありません。

 

☆☆☆


<道具2>

名詞チャンク

 

「名詞チャンク」は「実体」を表す道具です。そしてその置かれる場所がSubjectとObjectです。

名詞チャンクは、さまざまなかたちをとります。

まず名詞と代名詞(Japanese, cars, he, she, it)。これは説明無用ですね。なにしろ「名詞」チャンクですから。

つづいて名詞句。これには不定詞句(to study English)と動名詞句(Studying English)があります。不定詞句の特殊な例として、For+名詞+to不定詞というかたちもあります(for men to search their own glory, is not glory.)。また動名詞句には属格の代名詞を伴う用法もあります(his driving of the car)。これはけっこう一般的です。

それ以外の名詞チャンクとしては、まずThe+形容詞(the rich, the deep)、The+分詞(the sleeping, the killed)、疑問詞+to不定詞句(where to go, when to start)などがあります。

最後が「名詞節」です。

「節」(clause)とは、SV(OC)がそろっているセンテンスの中のセンテンスのこと。疑問詞(who, what, why, where)、関係詞(what, why, when, how)、従位接続詞(that, if, whether)ではじまるのが一般的です。

 
  • What he said is not true.
  • I don’t know how we should deal with it..
  • He asked me if I had breakfast
 

大事なことは、こうしたさまざまな表現がお互いに言い換え可能だということです。何かを述べたいとき、その表現方法は決してひとつではありません。

 
  • What he said is not true. →   His comment is not true.
  • His saying is not true.
  • I don’t know how we should deal with it. .→ I don’t know how to deal with it.
 

いいたいことは同じでも、表現はさまざま。それが言葉の面白いところですね。

英語を書くときに大事なことは、さまざまなかたちを持つ名詞チャンクという道具を、時と場合によってうまく使い分ける技術を身につけることです。

 

☆☆☆


<道具3>

述部動詞チャンク

 

SとO/Cとの「関係」を表すVの部分の言語表現が「述部動詞チャンク」です。
述語動詞は「テンス」「アスペクト」「ムード」という3つの表現形式を持っています。述語動詞は、一語とはかぎりません。take care of やaccount forのように熟語となる場合も数多くあります。

 

<テンス>

 

「テンス」(時制)は、時間の流れを表現する言語形式です。英語の動詞には「過去形」「現在形」の2つのかたちがあります。ちなみに日本語にテンスはありません。

 

☆☆☆

 

<コラム>

「現在形」は「現在」ではありません

 

「テンス」(時制)とは文法的カテゴリーの一種で、物理的な「時間」とは異なるものです。では、文法カテゴリーの「テンス」と物理的な「時間」とのあいだの対応関係はどのようなものでしょうか。

まず「過去形」は、物理的な時間としての「過去」とかなり一致すると思ってよいでしょう。ただし日本語の「~た」とはあまり一致しません。

つぎに「現在形」は、物理的な「現在」とあまり一致しません。物理的現在を表現するときもありますが、それよりも「現実に存在する」という意味の「現在」を表現することが本来の役割です。

「未来形」ですが、そもそも英語には未来形というかたちがありません。歴史的な経緯から英語は未来形という形式を失ってしまいました。いまはwillやbe going toなどで未来形を代用しています。

 

☆☆☆

 

<アスペクト>

 

「アスペクト」(相)は、動詞の示す出来事が「終わってしまっているのかいないのか」「いま続いているのかいないのか」といった様子を表現する言語形式です。英語では「完了形」「進行形」というかたちがあります。日本語の「~る」は未完了、「~た」は完了を表す言語形式です。

 

 

☆☆☆

 

<コラム>

現在完了形は現在形の一種

 

「現在完了形」は“present perfect”という英語の翻訳語です。“present”は「そこにある(存在する)」という意味。“perfect”は動詞としては「(文語)(事・物を)完成(完了)する、終える:」(ランダムハウス英和辞典)という意味です。

「完了」とあるので、現在完了形を物理的「過去」と対応させて捉えているひともいるようです。しかしそれは間違いです。現在完了形はその名のとおり、現在形の一種です。

たとえば、


  • She is pretty.
  • She is/has gone.

という2つのセンテンスをくらべると、この2つのセンテンスの基本イメージは同じことがわかります。「彼女についていえば“かわいい”という事実がここにある。」「彼女についていえば“いってしまった”という事実が(を)ここにある(持っている)。」ということです。

歴史をさかのぼれば、昔の英語(Old English)では、


  • I have caught the fish.

というセンテンスは


  • I have the fish caught.
 

という語順でした。「わたしは捕まえた魚を持っている。」というイメージです。その語順が変わって英語のなかに現在完了形というかたちが生まれたのは、14世紀のこと。日本でいえば鎌倉時代ですね。

I have caught the fish.という完了形の古いかたちは、いまでもよく用いられています。


  • I have no money saved.(私はお金を少しも貯めていない。)
  • They had their plan made.(彼らは計画をすでに立てていた。)
  • I had my diary written up.(私は日記を最近までつけておいた。)
 

☆☆☆

 

<ムード>

「ムード」(叙法)は話し手/書き手の心理(意思や判断)を表現する言語形式です。英語には「叙実法(直説法)」「命令法」「「叙想法(仮定法)」の3つの除法があるとされています。「されている」としたのは、じつは英語は他のヨーロッパ言語とは違い、叙想法というかたちをほぼ失ってしまった言語からです。

また述語動詞の前にくっつけられる「法」助動詞(should, must, shall, can)もムードの役割を担っています。法助動詞が担う役割のなかでよくとりあげられるのが、「どの程度義務を伴うのか」と「どの程度確実なのか」の2つの判断表現です。英語ではその判断の程度に応じて、利用する「法」助動詞の種類を変えていきます。

 

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<コラム>

叙実法と叙想法

 

ヨーロッパ言語の特徴として、なにかモノゴトについて述べるとき、それを事実として捉える場合(叙実法/直説法)と、それが頭のなかだけにしかないものとして捉える場合(叙想法/仮定法)とでは、言語表現を変えてしまいます。これが「叙法」(mood)とよばれる文法形式です。

非ヨーロッパ人からみれば、なぜそのような複雑な区別をわざわざしなくてはならないのか理解しがたいところもありますが、単数複数や男性名詞・女性名詞の使い分けと同様に、それがヨーロッパ言語の個性というものですから、しかたがありません。私なりに類推をすれば、こうした事実か事実でないかの厳密な区分は、ヨーロッパ言語が実体中心の世界観を持っていることと、なんらかの関係がありそうな気がします。

ヨーロッパ言語のなかでもフランス語やドイツ語では、この叙法という文法形式は、いまもかなり明確に残っています。具体的にいえば、フランス語やドイツ語では、叙実法と叙想法では動詞のかたちが違うのです。

ところが、英語では叙法のかたちはすでに失われてしまっています。つまり英語の動詞のかたちは、叙実法でも叙想法でもほぼ同じなのです。かたちで区別ができないのであれば、叙実法だの叙想法だのといってもたんなる「絵に書いた餅」にすぎませんね。

しかし、英語もヨーロッパ言語のはしくれですから、ものごとを事実として捉えるときと、そうでないと捉えるときとでは、区別をしたいという気分がまだ残っています。では、どうするでしょうか。

ひとつは、動詞原形を使うのです。

 
  • I demand that he see the president.(彼に社長に会ってもらいたい。)
  • It is necessary that she start at once.(彼女はすぐ発つ必要がある。)
 

といったかたちです。

もうひとつは、時制をずらすという方法です。そうすると現実感が薄らいで、叙実法から叙想法へと移れるというわけです。

 
  • If I knew her number, I could phone her. (彼女の電話番号を知っていたら、電話がかけられるのだが。)
  • I’d go myself, if I was any help. (何かお役に立つなら、私が参ります。)
 

私たち日本人が英語を書くときには、この叙法という概念はなかなか思い浮かばないものです。しかし、ヨーロッパ言語としての英語にとって、叙法はいまも大切な要素のひとつです。できるかぎり、うまく対応していきたいものです。

 

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<道具4>
形容詞チャンク

 

形容詞チャンクは、名詞チャンクのうしろにういて、その意味を補うチャンクです。

名詞チャンクと同様、形容詞チャンクも、さまざまなかたちをとります。

まず単独の形容詞ですが、じつはこれは特殊なケースです。通常形容詞チャンクは名詞チャンクのうしろにつくのですが、単独の形容詞だけは名詞チャンクの前につくからです(pretty boy, great idea)。ちなみにフランス語では単独の形容詞であっても名詞チャンクのうしろにつきます。このほうが合理的です。

つづいて形容詞句です。形容詞句には、前置詞句、to不定詞句、現在分詞句、過去分詞句があります。of, on, in, at, from, in front of, among, betweenなどの前置詞に名詞(語句)がついたものです。

そのなかで最も多く使われるのが「of+名詞」ですが、英語学習上の問題は英語のofと日本語の「の」を一対一対応させすぎることです。ofと「の」はよく似ていますが、しかし一対一対応はしません。ofには「の」でカバーできない機能があり、なによりもofと「の」では名詞の配置の順序が逆です(「A of B」と「BのA」)。位置が逆なら「意味」がちがってくるのです。

to不定詞句、現在分詞句、過去分詞句はいずれも動詞を中心とした形容詞句です。

to不定詞句は、いかなるイメージも伴わない中立的な表現形式です。

The man to help you is John.(あなたを助けてくれる人は、ジョンです。)

現在分詞句は、動きのイメージを伴います。

The man helping you is John.(いまあなたを助けている人は、ジョンです。)

過去分詞句は、受け身と完了のイメージを伴います。

This is the letter written by him.(これは彼が書いた手紙だ。)

最後は形容詞節です。かたちでいえば、関係代名詞節、関係副詞節のことです。

翻訳のみならず日本人が英語を書くときには、日本語の連体修飾節を英語の形容詞節に置き換えるのが普通です。

私が新宿で買ったバッグ              → The bag that I bought in Shinjuku

彼が去年訪れた町                         → The town where he visited last year

これは間違いです。最大の理由は、日本語と英語では配置の順序が逆なため、「トピック・コメント関係」が逆になっているからです。

The bag that I bought in Shinjukuをみてみると、最初に置かれたthe bagがトピックで、あとに置かれたthat I bought in Shinjukuがコメントです。敢えて日本語にすると「そのバッグ(は)、私が新宿で買ったものだが、」ということになります。いっぽう「私が新宿で買ったバッグ」の場合は、最初に置かれた「私が新宿で買った」がトピックで、コメントが「バッグ」です。

たしかにSVO関係でいえば同じですが、トピック・コメント関係では違います。ここからいえるのは、日本語の連体修飾節をただ自動的に英語の形容詞節に置き変える英文の作り方は根本的に間違っているということです。

では、どうずればよいのでしょうか。

まず「並べる順序」に注意を向けるべきです。それがトピック・コメント関係を決めるからです。たとえば「このバッグは新宿で買ったものです。」という日本語を英語にするときには、I bought this bag in Shinjuku.よりも、This is the bag I bought in Shinjuku.のほうが優れています。日本語と英語でトピック・コメント関係が同じだからです。

語・句・節といった「かたち」の一致にこだわることもやめるべきです。たとえば「私が考えたこと」という日本語を英語で表すにはwhat I thoughtとするよりも、my ideaで十分です。連体修飾節だから形容詞節にするなどと決めつけず、内容を中心にさまざまな表現を考えるべきです。

 

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<道具5>
副詞チャンク

 

副詞チャンクは、センテンス全体(または動詞チャンク)の意味を補うチャンクです。

英語のセンテンスにとって副詞チャンクはやっかいな存在です。

第一に、副詞チャンクのかたちが、形容詞チャンクとほぼ同じであることです。うえの形容詞チャンクのところで述べた前置詞句、to不定詞句、現在分詞句、過去分詞句、節は、すべて副詞チャンクとしても使うことができます。姿かたちからだけでは、副詞チャンクと形容詞チャンクとの区別は、ほとんどつかないのです。

第二に、副詞チャンクはセンテンスのどこにでも置けるということです。副詞チャンクはまさに神出鬼没。いつ副詞チャンクが出てくるかはまったく予測できません。これがじつにやっかいなのです。

第三に、副詞チャンクが「節」の場合には、SVO構文がそこに含まれるためにセンテンスが「入れ子」となり、複雑さがぐっと増します。

副詞節では、いろいろな接続関係表現を用いて、以下のように多種多様な要素を表現できます。

時間――when, whenever, while, as soon as, after, since, as, before, until
  • Whenever I had to speak in front of people, I was paralyzed by fear
 

場所――where,wherever, everywhere, anywhere
  • Can you use an ATM card everywhere you shop?
 

距離、頻度、方法――as + adverb + as, as if/as though
  • She runs on the beach as far as she can..
 

理由――because, since, as
  • Since I need to make speeches for career advancement, I enjoyed in a speech class.
 

目的――so that, in order that
  • I took a speech class so that I could overcome my fear of public speaking.
 

結果――so + adjective/adverb + that, such a(n) + noun + that, so much/little + noun + that, so many/few + noun +that
  • At first, making a speech made me so nervous that I got a stomachaches before every class.
 

予期しない結果――although, even though, though
  • Even though I am a successful business executive, I still do not enjoy speaking in public.
 

対照的――while, whereas
  • At social events, I like to talk quietly with one or two people, whereas my girlfriend enjoys being in the center of a crowd.
 

条件――if, unless
  • If I hadn’t taken that speech class in college, I wouldn’t be able to do my job well.
 

独立分詞構文を副詞チャンクとして使うという手もあります。独立分詞構文は格式的な表現なので日常会話で使われることはありませんが、書き言葉としてはかなり頻繁に用いられています。
  • Other things being equal, the simplest explanation is the best.
  • He joined the group, his face beaming with interest.
  • All things considered, the proposal is not a bad one.
 

前に前置詞がつくこともあります。
  • The car was upside down, with its wheels still turning.
  • He died with that word unsaid.
 

こうした表現をうまく使いこなせるようになれば、英文ライティングの幅がぐんと広がります。

 

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<道具6>
句読記号

 

英文センテンスをつくる際に意外と忘れがちなのが、カンマ、コロン、セミコロン、ダッシュなどの句読記号の活用です。こうした記号をうまく使えば、センテンスの幅がぐんと広がります。

英語の句読法や句読記号については参考書がいくつもありますので、詳しくはそちらをみてください。ここでは、特に気をつけるべき点だけをご紹介します。

 

カンマ、セミコロン、コロン、ピリオド

 

この4つの記号はいずれも「区切り」を表すものですが、区切りの強さの程度が違います。

カンマは、このなかで一番弱い区切り記号です。カンマの使い方でもっとも気をつけるべきは、3つ以上の並列を表すときの使い方。一般にアメリカ人はA,B and CとCの前にカンマを入れず、イギリス人はA, B, and CとCの前にカンマを入れます。どちらにしても統一すれば問題ありません。

セミコロンは、いわばカンマの兄貴分です。カンマよりもっと強く区切りたいときに用います。2つのセンテンスをセミコロンでつなぐこともあります.
  • Today the Japanese like American movies; we like American music as well.
 

ピリオドで区切るほどの強い区切り感覚がなく、2つのセンテンスのあいだに「つながり感」を示したいときによく用いられる手法です。もちろんこれを
  • Today the Japanese like American movies, and we like American music as well.
と書いてもOKですが、このようなセミコロンが使えるようになると、ライティングの幅が広がります。

コロンは、セミコロンよりも、さらに区切り感覚が強くなります。よく用いられるのは、以下のように列挙をする場合です。
  • There are three major sports in the United States: the baseball, the basketball and the football.
 

これをコロンの代わりにsuch asを使って
  • There are three major sports in the United States such as the baseball, the basketball and the football.
と書くこともできますが、一般にはコロンを使ったほうが引き締まって感じられるようです。

コロンがピリオドに近い感覚で使われるケースもあります。
  • We are not satisfied with this product: It has cracked and mislabeled.
みてのとおりコロンのあとは大文字ではじまっています。ということは、ピリオドもよいのですが、2つの文のあいだに意味的なつながりがとても強いので、敢えてコロンを使っているのです。こうしたコロンの使い方をマスターしたいものです。

ピリオドについては、(1)連続して打つことはない、(2)リストの項目には打たない、(3)ピリオドのあとのスペースはワンスペース(ツースペースではない)、(4)USA、UKなどについては省略のピリオドは使わないのが一般的、ぐらいに気をつければよいでしょう。

 

ハイフン、ダッシュ

 

ときとしてハイフンとダッシュを混同しているケースがみられます。基本的にハイフンは語をつなぐもの、ダッシュは句やそれ以上のチャンクをつなぐものです。

ダッシュの前後のスペースは空けません。これを空けるケースがときどきみられます。ダッシュは挿入句の表現によく用いられます。これは日本語の丸括弧とよく似た感覚ですので、もし日本語で丸括弧があれば、英語の丸括弧(parenthesis)ではなく、ダッシュを使うことをお奨めします。

 

イタリック

 

イタリックのおもな用法は、(1)強調、(2)書籍等のタイトル表記、(3)外国語の表記、です。強調については問題ありませんが、書籍等のタイトル表記と外国語の表記については、ときとして混乱しているケースがみられます。

なおイタリックの代わりに下線を使うこともできますが、お奨めできません。

 

英語で使用されない記号、他

 

日本語では使用されても英語では使用されない記号がかなりあります。~、※、①、〒、<、→、*、などです。1)、a)、なども避けたほうがよいでしょう。

分数については、2/5と書くのではなく、two fifthと書いてくだい。また一月あたり100ドルなら、$100/monthではなく、$100 a monthにしましょう。

数字については、英米では数字の3桁区切りにカンマ、小数点にピリオドを用います(12,345.689)が、たとえばスペイン語圏では逆に小数点にカンマ、3桁区切りにピリオドを使うなど国によってまったく違うシステムを使っているところがありますので、注意が必要です。

 

 

☆☆☆


<道具7>
ラテン語系語彙

 

たとえば「米国の金融機能不全によって危機的状況が発生した。」と書かれていると、いかにも専門家の文章だといった感じがしませんか。ところが「アメリカでカネまわりがとまってしまったので、とてもまずいことになった。」と書かれていては、専門家の文章とはとても思えません。いっていること自体は、じつは同じなのですが。

この差を生み出しているのが語彙の違いです。前者の文章には漢語がたくさん使われていいますが、後者には漢語がひとつも使われていません。この漢語の有無が文章のイメージを決めているのです。

これと同じことが英語のセンテンスにもあてはまります。そして英語で漢語にあたるのがラテン語系[17]の語彙です。

歴史的な経緯から現代英語はゲルマン語系語彙とラテン語系語彙のふたつの語彙体系をあわせ持っています。

たとえば「目」はゲルマン系語彙でeyeですが、しかし医学用語ではラテン語系語彙であるoculusとなります。「手」はhandで手書きの本はhandbookですが、専門家ふうにいいたいときはmanualになります(ラテン語の「手」はmanus)。

このように英語では知的分野の叙述はラテン語語彙で表現するのが一般的です。また、専門的なことがらについて書くときには、多くのひとがゲルマン語系語彙よりもラテン語系語彙を使いたがります。日本語の学者や役人が漢語を使いたがるのと同じです。

日本人のような英語ノンネイティブが英語を書くときにも、ゲルマン語系の語彙とラテン語系の語彙の両方を使えるようにならなければなりません。というのも、フランス語やドイツ語のように日常的な語彙と知的な語彙とのあいだに区別がない言語とは違って、英語では日常的なゲルマン語系の語彙だけでは知的分野での文章は書けないからです。ちょうど知的な日本語を学ぶときに漢字をたくさん覚えなければならないのと同様に、知的な英語を学ぶときにはラテン語系語彙をたくさん覚えなければなりません。たいへんなことですが、それを避けるわけにはいかないのです。

では、どうすればラテン語系の語彙をマスターできるのでしょうか。魔法のような方法はありませんが、いくつかの近道はあります。

ひとつは、まず語源をマスターすることです。ラテン語系の語彙の多くは、接頭辞、語根、接尾辞という3つのパートからできています。この3つのパートをそれぞれに覚えると、かなり広範囲のラテン語系の語彙をカバーすることができます。語源の一覧表はどこでも簡単に手に入ります。

もうひとつは、英米で出版されている上級の英語語彙トレーニングブックを活用することです。日本で出版されている単語トレーニングブックはそのほとんどが中級レベルまでで、本当の意味でのラテン語語彙はあまりカバーしていません。いっぽう、英米では大学院レベルに必要なラテン語系語彙を学習するためのトレーニングブックが数多く出版されています。こうした本を購入して、練習にはげむのです。

日本人だけでなく、英語ネイティブにとっても、語彙力の向上は、まさに永遠の課題です。一年や二年といった短期間ではなく、十年、二十年といった長期間を視野に入れながら、ひとつずつ語彙を増やしていくという姿勢が大切です。

 

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Part 2
練習問題

 

以下の日本語の文章を英文にしてください。

[1]

ネコは本来、警戒心の強い生き物です。この警戒心とは、敵の気配を察したらすぐに逃げられるように、つまりネコが自分の身を守るために持っている本能です。しかし、心から安心できる環境にいるネコは、幸か不幸かこの能力を使わずにすんでいるのです。

つまり室内飼いのネコにとって、室内ほど安心できる場所はないのです。敵もいないし、エサもあるし、トイレだってあります。自分の愛してやまない飼い主が用意してくれた環境なのですから、悪いはずがありません。したがって、「室内飼いのネコが外に出られないからストレスがたまっている」という考え方を、全てのネコに当てはめることはできないのです。

 

[2]

子供の貧困は、公正な社会の実現を大きく阻害する。現代社会は各人の業績に応じて富が配分されることを正当と認める社会である。そうした前提での「公正」な社会とは、結果の平等ではなく、機会の平等が万人に保障されている社会のことである。だが親世代が貧困である場合、その子供たちがもつ機会は必然的に他の子供よりも少なくなる。いいかえれば、そうした子供たちはみずからの責任ではなく、機会の平等を手にすることから阻害されているのだ。この事実は、子供が貧困であるかぎり、機会の平等は万人には保障されないことを意味する。そして機会の平等が万人に保障されない社会は公正な社会ではない。ゆえに子供の貧困は、公正な社会の実現を大きく阻害するものである。

 

[3]

英語の勉強では会話より読み書きを優先すべきである。理由は以下の3つである。

第一は実利面である。グローバル化が急速に進む現在、英語の高度な読み書き能力はもはやビジネスや学問の必須条件となった。英文を速く的確に読み、説得力ある英文を書くことできなければ、質の高い仕事はもはやできない時代になりつつある。いっぽうで会話にはそうした重要性はない。時として海外旅行で、あるいはビジネス交渉や学会の発表で英語が必要となるケースもあるかもしれない。だがそれは非日常的な事態にすぎない。日常のなかで英会話が必要となる状況など日本ではまず考えられない。ようするに英会話よりも英語の読み書きのほうが私たちの生活にとってはるかに現実的に役に立つということである。

第二は効率性である。そもそも会話とは学習するものではなく現場の実践のなかで慣れていくものである。英語が日常的に用いられている状況に入らないかぎり、会話力を向上させることは基本的に無理である。逆に、そうした状況のなかにいれば会話力は自然に向上する。いっぽう読み書きの力は学習を通じて向上するものであり、自己流で読み書きの力を向上させていくことはきわめて効率が悪い。英語を学習するのであれば読み書きを中心に行ったほうがはるかに効率がよい。

第三は内容面である。たとえビジネスや学問に関するものであっても会話の内容とは基本的に狭くて浅いものでしかない。ましてや単なる日常会話では深い内容の意見を交換するなどほぼ不可能だ。いっぽう読み書きでは深く広い情報や意見を交換することが可能となる。英語の読み書き力を磨いていくことで、これからのグローバル時代に対応できる知性や教養を育てていくことができるのである。

 

[4]

一人のシステムエンジニアが急死した。原因は脳内出血、33歳だった。就職して以来、毎年3,000時間近くを仕事に費やし、死亡直前の1週間の労働時間は73時間に達していた。あるトラックの運転手は勤務中に運転席で亡くなった。亡くなる前の約4年間は1日平均13時間を超える労働が続き、休日は月に3日程度だった。一人の若手広告マンは入社二年目で首吊り自殺をした。勤務は深夜早朝に及び、自殺直前は3日に1回徹夜で残業し、睡眠時間は1日平均2時間程度だった。このように日本ではいま過労死が深刻な社会問題の一つとなっている。そしてそれを生み出す要因として、日本企業文化のあり方、日本社会のゆがみ、日本人の精神的特性などが挙げられる。

過労死を生み出す原因の一つとしては、多くの日本企業に内在する個人の軽視、成果ではなく努力を重くみる風潮、私生活を軽んずる意識といった企業文化のあり方が挙げられる。一般に日本企業は集団指向が強く、その裏返しとして個々人に対する配慮を後回しにしがちである。それが労働時間の管理の甘さにつがっている。たとえば部の全員が遅くまで仕事をしていれば、たとえそのうちの一人が体調が悪くとも「みんながやっているのだから」ということで一緒に遅くまで働くことになる。また日本企業では成果ではなく努力自体を評価する傾向が強いため、よい社内評価を得るためには従業員が長時間労働を強いられることも多い。部長が帰らなければ部の全員が帰れないというケースもよく聞かれる。さらに多くの日本企業には従業員の私生活よりも仕事がすべてに優先するという企業文化が根づいており、それが長時間労働の強制へとつながっている。有給休暇をたくさんとると出世にさしさわるという声がささやかれる日本企業もいまだに多い。

以上から、過労死の背景には日本および日本人の持つさまざまな文化的特性が潜んでいることがわかった。こうした日本および日本人の文化的特性を根本的に修正しないかぎり過労死の問題は抜本的に解決しない。過労死は、その人の不幸であるばかりでなく、有能な人材を失う日本社会にとっても大きな不幸である。そうした大きな不幸を生み出しているのが日本社会固有の特性であるとすれば、その部分については日本社会全体として早急に変えていなければならない。そのためには社会を代表する制度である政治・行政および司法がさらに強いシーダーシップを発揮すべきである。

 

 

☆☆☆☆☆



 

日本人のための

英語ライティング講座

第三回

Lesson 3

英語テクストの組み立て方

 

テクストにはさまざまなタイプがあります。小説、エッセイ、詩、学術論文、ビジネス文書、判決文などなど、メールやチャットなどもテクストの一種です。

これらのテクストには共通の原則があります。ここでは、まず英語テクストを組み立てる際の原則について説明し、続いて、英語テクストの代表的テンプレート(ひながた)である「アカデミック・ライティング」を簡単にみていくことにします。

 

☆☆☆

 

 

<英語テクストの組み立て原則>

英語テクストはセンテンスをただ並べるだけ

 

英語センテンスの組み立て方を思い出してください。基本はそれぞれのチャンク(単語のかたまり)をただポンポンと並べるだけでしたね。英語のテクストの基本もまったく同じです。つまり英語センテンスをただポンポンと並べるだけなのです。

こうした英語テクストの「ぶつ切り」感覚は、日本語の文章の「つながり」感覚とは根本的に異なるものです。共有の「場」を重視する日本人は言い切り表現を好みません。ひとりよがりで乱暴な感じがするからです[1]

こうした感覚の違いから、日本人はポンポンとセンテンスを並べるだけの英語テクストを書くことがとても苦手です。そのためセンテンスのあいだに、and, on the other hand, in other words, for example, in my opinionなどの「つなぎことば」を数多く入れようとします。しかし英語の場合には、センテンス間に自然な流れがあるかぎり、センテンスのあいだにつなぎことばを入れる必要はありません。センテンスをただポンポンと置いていけばよいのです。

 

センテンスの並べ方には計算と戦略が必要

 

しかし、ただ並べるだけといっても、でたらめに並べるのではテクストにはなりません。

碁盤に碁石が並んでいるところをイメージしてください。碁石のひとつひとつがセンテンスです。もし碁盤のうえに、碁を何も知らない子供が碁石をただポンポンと置いたとしたら、碁ではありませんね。いっぽう、碁の熟練者が碁石を置けば、たとえ見た目は子供のものと同じようでも、それはまったく違うものです。そこには綿密な計算と戦略があるからです[2]。英語のテクストをつくるときにも、碁を打つ場合と同様に、こうした綿密な計算と戦略が必要なのです。

 

センテンスを並べる基本は「フロー」重視

 

英語センテンスの基本はセンテンスのながれ、つまり「フロー」を重視することです。

つぎの2つのテクストをみてください。先のものはフローが整っており、後のものはフローが整っていません。そのため、内容自体は同じであるのに、先のものは読みやすく、いっぽう後のものはとても読みづらく感じます。
  • The first phase of this study will mainly examine six market segments in the Western Pacific region to determine how Asian competitors have sought to compete directly with Acme’s X-line product groups. In each segment, the study will examine in detail their labor costs and their ability to introduce new products quickly. The result will be a plan that will show Acme how to restructure its diverse and widespread facilities so that it can better exploit unexpected opportunities, particularly in the market on the Pacific Rim.
 
  • Asian competitors who have sought to compete directly with Acme’s X-line product groups in each of six market segments in the Western Pacific region will constitute the main objective of the first phase of this study. The labor costs of Acme’s competitor and their ability to introduce new products quickly define the issue we will examine in detail in each segment. A plan that will show Acme how to restructure its diverse and widespread facilities so that it can better exploit unexpected opportunities, particularly in the market on the Pacific Rim, should result.
 

したがって私たちが英語テクストを作る際には、テクスト全体のフローについて考えることが大切です。

 

☆☆☆

 

<コラム>

トピック・ストリング

 

テクストのフローを考える際に最も重要なのは、センテンスのトピックのあいだにつながりを持つことです。こうしたトピックのつながりのことを、ストリング(ひも)に例えて「トピック・ストリング」と呼んでいます。ひもは切れていては使い物になりません。テクストも切れていては使えないということです。

たとえば「インターネットの登場が世界のあり方を大きく変えた。」というセンテンスがあるとします。これに続くトピックで一般的なものはそれに対する説明のセンテンスです。「世界中の人々が知識を共有できるようになった」「あらゆる知識を簡単に検索して手に入れることができるようになった」「いっぽうでインターネットを使える人と使えない人の格差が大きく開いた」などなど。ご存知のとおり、これがアカデミックライティングのトピックセンテンス/サポートセンテンスのかたちです。

ところが、もし「インターネットの登場が世界のあり方を大きく変えた。」というセンテンスのあとに「核廃絶は現在の世界の最大の課題である。」とか「この前のサッカーワールドカップで日本チームはよく頑張った。」などというセンテンスがつづくとすれば、これはもう支離滅裂です。実際のところ、これほどの極端な例ではなくとも、これに類した例は数多くみられるものです。

 

☆☆☆

 

接続表現はフローの方向を変える交通標識

 

フローにはさまざまな方向性があります。ある一方向へずんずんとそのまま進んでいく場合もあれば、急にくるりと方向を変える場合もあります。あるいは、ふとわき道にそれてしまうような場合もあります。

たとえば、次のようなシーンをイメージしてください。あなたはいま車を運転しています。いままでに一度もきたことのない道を走っています。地図もありません。かなり不安ですが、それでも走りつづけなければなりません。

道はいまのところまっすぐ続いています。その場合はそのまま走りつづければよいのです。すると目の前にひとつの交通標識が出てきました。このあと道が急に左に大きく曲がるというのです。そこで心の準備をして待ち構えていると、たしかに道が左に大きく曲がりました。でも予測をしていたのでトラブルなく曲がることができました。

テクストにおいて道路での交通標識にあたるものがand, but, while, although, furthermore, in other wordsといった接続表現です。これらの接続表現がうまく使われていると、ドライバーが交通標識をみながら安心して車を運転できるように、読者はテクストを安心して読み進めることができるのです。

以上をまとめてみますと、英語テクストはセンテンスをただ並べるだけ、ただしセンテンスの並べ方には計算と戦略が必要、並べ方の基本はフロー重視、そしてフローの方向を変えるために接続表現を使うこと――これが英語テクストを組み立てる際の原則です。

 

<アカデミック・ライティング>

英語テクストの代表的テンプレート「アカデミック・ライティング」

 

これらの原則を踏まえつつ、学術テクスト、行政テクスト、ビジネステクストなどに頻繁に用いられているテンプレート(ひながた)が「アカデミック・ライティング」という形式です。

アカデミック・ライティングの最大の特徴は、まさに型どおりであること。テクストとしての組み立てのルールがきっちりと決まっているため、誰が書いてもおなじスタイルになり、誰が読んでも同じように読み進めることができます。まことに無個性といえば無個性なのですが、そうであるがゆえに、万人にとって使いやすいものになっているのです。

 

まずアカデミック・ライティングからはじめよう

 

日本人が英語テクストをつくるうえでは、この型どおりさと無個性さが大きなメリットになります。型どおりで無個性であるがゆえに、英語のことに神経をあまり使うことなく、内容のほうに集中することができるからです。もちろん型どおりで無個性なのですから、言葉としての魅力には欠けます。しかしそれは仕方のないことです。私たちにとって英語はしょせん外国語なのですから、欲張ってはいけません。

まずはアカデミック・ライティングの方法や形式をしっかりと理解し、そして十分に練習しましょう。そうすれば、私たちの目標である、世界中の誰にもわかりやすい日本人として最良の英語がかならず書けるようになるはずです。

 

アカデミック・ライティングの構造と種類

 

アカデミック・ライティングの基本構造は、Introduction、Body、Conclusionの3つのパートから成り立っています。

最初のIntroductionパートでは、General statementとThesis statementを述べます。General statementとはテーマの背景にある一般的ことがらを述べる部分のことです。

その次にBodyパートを置きます。ここはThesis statementで述べられたテーマをさらに発展させて解説する部分であり、アカデミック・ライティングのメインパートです。

そして最後にConclusionパートを置き、これまでに述べてきた内容をもう一度まとめます。

アカデミック・ライティングテクストにはいくつかのタイプがあります。「叙述」タイプ、「プロセス」タイプ、「原因・結果」タイプ、「対比」タイプ、「論証」タイプといったものです。

「叙述」タイプは、出来事や概念の内容を詳細に述べていくものです。「プロセス」タイプは、時間や手順といった過程順に述べるものです。「原因・結果」タイプは、原因と結果を述べていくものです。「対比」タイプは、複数の対象を比較したり対照させたりするものです。そして「論証」タイプは、自分の主張について述べるものです。

もちろんアカデミック・ライティングのテクストがこうしたタイプ別にすべてきれいに収まるわけではありません。いくつかのタイプが入り混じったハイブリッド型テクストもよくみられます。大切なことは、こうしたさまざまなタイプがあることをきっちりと理解したうえで、みずからのテクストをつくっていくことです。

 

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Part 2
練習問題

 

 

あなたが興味のあるテーマについて、アカデミック・ライティングの形式を用いて英語プレゼンテーション原稿(800 words以上)をつくってください。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

日本人のための

英語ライティング講座

第四回

Lesson 4

文体

日本語の文章と同じように英語のテクストにもさまざまな文体があります。そうした文体の違いをうまく使い分けられないと奇妙な文章やテクストができあがってしまいます。意味はつうじるのですが、奇妙なのです。

たとえばだけどさあ、ここから、こんなふうに話しことばみたいなカンジで書いちゃったら、なんかヘンでしょ?

一方、本論のような一般文書を公的文書と同等の文体によって作成するとすれば作成された文書が読者に対してきわめて異様な印象を与えることは論を待たない。

あるいはさあ、文体の分別が不可能な場合にはね、こんなふうに多種多様な文体が無秩序に混在しちゃって、とってもヘンなカンジになるのである。

英語の文体が理解できていなければ、上記の日本語のような印象を与える英語を書いてしまうかもしれません。ぜひとも避けたいものです。

では英語のテキストの文体にはどのようなものがあるのでしょうか。みていきましょう。


<さまざまな文体>

 

ジャーナリズム文体

まず、報道文体です。“ジャーナリーズ”(Journalese)などとも呼ばれます。具体例をみてみましょう。以下はNew York Times2010年8月7日の記事の一部です。


  • MOSCOW – Wildfires that have overwhelmed Russia’s firefighting services and burned freely through large areas of the heat-seared countryside have claimed 52 lives, clouded Moscow in smoke and on Friday forced the military to transfer rockets away from a garrison near the capital.More than 800 wildfires had been reported by the end of the week. Most were in western and central parts of the country, which is in its worst heat wave since record-keeping began here more than 130 years ago.Temperatures have been spiking since mid-June, and no relief was in sight on Friday, when temperatures in Moscow were forecast to exceed 100 degrees, about 25 degrees higher than usual.A thick, milky haze shrouded the city, and many Muscovites peered with red-rimmed eyes over the tops of surgical masks or wet handkerchiefs.By 1:40 p.m., the city’s environmental protection agency said the concentrations of carbon monoxide were five times as much as acceptable levels, while particulate pollution was three times as much.The heavy smoke disrupted flights into Moscow. At Domodedovo Airport, visibility on the runways was down to about 400 yards on Friday, the news agency Itar-Tass reported. Dozens of arrivals were delayed or late, the airport reported on its Web site.
 

2010年夏の異常気象でロシアに森林火災が大発生したという報道記事です。最初のセンテンスがトピックセンテンス、そのあとに詳細な事実が項目ごとに述べられています。
ジャーナリズム文体の最大の特徴は、無駄をできるかぎり省いて1センテンスのなかにできるかぎり多くの内容を詰め込もうとするところです。たとえばこの記事の最初のセンテンスをみてください。
  • Wildfires that have overwhelmed Russia’s firefighting services and burned freely through large areas of the heat-seared countryside have claimed 52 lives, clouded Moscow in smoke and on Friday forced the military to transfer rockets away from a garrison near the capital.
 

こうした濃密かつスピード感あるスタイルがジャーナリズム文体の持ち味です。

ただ、こうした高度な技術を要する文体を、英語ノンネイティブである日本人がマスターすることは、たいへんに難しいことです。

その意味から、残念ながら「世界中の誰にもわかりやすい日本人として最良の英語」のモデルには向いていません。私たちがいま目指しているのは、きちんと努力さえすれば誰にでもマスターできる、シンプルでわかりやすい英語文体なのです。

 

ビジネス文体

 

そうした私たちの目標とする文体に近いものが、ビジネス文体です。ビジネス文体は、ジャーナリズム文体と同様に無駄をなくすことも特徴としていますが、ジャーナリズム文体とはちがって1センテンスに内容を詰め込むことはありません。そのかわりに短いセンテンスを積み重ねていくという方法をとります。たとえば以下のようにです。

Your securities are safe with your broker. All securities held for you by your brokerage firm are insured by Securities Investor Protection Corporation, a congressionally-chartered company. Your brokerage firm may also take out additional insurance form a commercial insurance company. If your brokerage firm goes under, you will not lose the securities it holds for you.

(Effective Business Writing, Maryann V. Piotrowski, p.30)

 

このテキストは合計で56ワード、4つのセンテンスに分かれていますので1センテンスの長さは平均14ワードです。いっぽう上記のNew York Timesの記事の1センテンスの平均の長さは34ワード、その違いは明白です。

「無駄をはぶく」以外に、ビジネス文体でよく取り上げられるチェックポイントをいくつか挙げておきます。

 
  • 大仰ではなくシンプルで誰にでもわかりやすい表現を使う。
  • わかりやすくするために見出しや箇条書きを有効利用する。
  • 部分でなく全体の組み立てを重視する。
  • 抽象表現ではなく具体表現を使う。
  • 受動態ではなく能動態を使う。
  • 決まり文句や業界用語を避ける。
  • 言葉としての魅力にこだわらない。
 

これらのポイントは私たちが英語を書く際にもたいへんに役立つものです。

 

 

法律文体

 

 

法律文体はビジネス文体と対照的です。ビジネス文体の特徴である「大仰ではなくシンプルでわかりやすい表現を使う」「見出しや箇条書きを有効利用する」「部分でなく全体の組み立てを重視する」「抽象表現ではなく具体表現を使う」「受動態ではなく能動態を使う」「決まり文句や業界用語を避ける」といった特徴をすべて裏返しにすると法律文体になります。

法律文書では異なった解釈を許さない厳密さが極限まで追求されます。それなりの威厳さを感じさせる必要もあります。その結果、堅苦しく、古めかしく、まわりくどい文体、つまり非常に読みづらい「悪文」が定着したのです。

まず法律文体の一例を挙げます。ある訴訟の判決文の一部です。

 
  • In applying the first step of its inquiry, a Delaware court must determine whether the board’s actions have amounted to defensive “responses that bar shareholder choice by denying them the opportunity to receive offers.” If such defensive measures are employed, under Unocal v. Mesa Petroleum, the challenged board bears the burden of demonstrating that: (a) it has ” ‘reasonable grounds to believe a danger to corporate policy and effectiveness existed’ ” and (b) such actions are “reasonable in relation to the threat posed.” The second prong was strengthened in Unitrin Inc. v. American General Corp. to increase scrutiny for defensive actions designed to transfer decisionmaking power from shareholders to management. The classic defensive maneuver invoking Unocal is the board’s implementation of a shareholder rights plan, better known as a “poison pill.” Poison pills destroy a hostile bidder’s ability to gain control of the company through a tender offer because they automatically dilute the holdings of the bidder by increasing the holdings of other shareholders. Another defensive tactic subject to the Unocal principle arises when a company launches a self-tender offer in response to a hostile bid.69 In an effort to appear more management-friendly, many states have statutorily eliminated their courts’ ability to impose Unocal principles.
 

法律文体としてはあまり複雑なほうではありませんが、それでも私たちにとってかなり読みづらいものになっています。

つぎに面白い例をひとつご紹介しましょう。素材は村上春樹の小説『ノルウェイの森』の一節です。

 
  • 四月六日に緑から手紙が来た。四月十日に科目登録があるから、その日に大学の中庭で待ちあわせて一緒にお昼ごはんを食べないかと彼女は書いていた。返事はうんと遅らせてやったけれど、これでおあいこだから仲直りしましょう。だってあなたに会えないのはやはりさびしいもの、と緑の手紙には書いてあった。

(村上春樹『ノルウェイの森』より)

上記の英訳以下のとおりです。簡潔な文体を利用して原文のイメージをうまく表しています。


  • A letter came from Midori on 6 April. She invited me to meet her on campus and have lunch on the tenth when we had to enroll for lectures. I put off writing to you as long as I could, which makes us even, so let’s make up. I have to admit it, I miss you.

Norwegian Wood, Haruki Murakami,
translated by Jay Rubin)

 

この文学作品を法律文体にリライトしたとすると、どんなものになるでしょうか。ためしに友人の英語ライターと二人でやってみました。

 
  • On the date of April 6, the author (hereinafter referred to as the “Author”) received, from a woman named Midori (hereinafter referred to as “Midori”) a letter in which “Midori” made a proposal regarding the feasibility of a meeting between herself and the “Author” for the purpose of having lunch on the date of April 10, such day being the date upon which students were expected to undertake registration for the courses to be attended thereby. In the aforementioned letter, “Midori” noted that her lack of previous communication with the author had been intentional; nevertheless, “Midori” went on to state, she had perceived that equality had developed in terms of the level of mutual communication initiated between the two aforementioned parties, and that an amicable and mutually beneficial relationship should be resumed, based on the aforementioned perception of “Midori” and her negative sentiments regarding the prolonged absence of contact with the “Author.”

(by Yukio Naruse and Michael Martin)

 

これが法律文体、つまり“リーガリーズ”(Legalese)です。以下はその直訳です。

 
  • 4月6日、筆者(以下「筆者」)は、緑という名称の婦人(以下「緑」)から、学生が授業科目登録を実施すると予測される4月10日において昼食を持つことを目的として彼女自身と「筆者」とのあいだの会合を有することに対する実現可能性に関する提案を「緑」が行っていることをその内容とする手紙を受領した。上記の手紙において「緑」は、彼女の「筆者」とのあいだの過去の意志伝達の不足が意図的なものであったことを示唆し、にもかかわらず――「緑」は主張を続けた――彼女は上記二名のあいだで開始されている相互意志伝達の水準という観点において平等性が生み出され、かつ「緑」の上述の認識および「筆者」との長期にわたる接触の不在に関する彼女の否定的感情を基盤として相互に有益な関係性が回復されるべきであると認識していた。
 

法律文体については英米の一般の人々だけでなく法律関係者からも批判がなされています。そもそも法律は万人のためのあるべきものなのに、こうした法律文体は法律専門家にしか理解できないのですから、そうした批判は当然のことです。

もちろん法律文体の英語テクストを私たちが書く必要はありません。ただそうはいっても実際の契約書などは法律英語でつくられているのですから、それに対応しなければなりません。その際には、英語の法律文体に精通した専門家におまかせするのがよいでしょう。

 

行政文体

 

官庁から出される文書にも法律文書と同様に正確さが必要です。さらに役人には責任逃れというメンタリティも働きます。そのため官公庁文書に用いられる文体は法律文体に近い悪文になっています。これは“行政文体”(officialese)と呼ばれています。

行政文体の極端な例を以下に挙げてみましょう。とにかく読んでみてください。

 
  • The said aggregate further single premium shall be apportioned equally among the existing Policies and consequently in relation to each such Policy the Further Minimum Sum Assured secured by the part of the said aggregate further single premium apportioned thereto shall be sum equal to the aggregate Further Minimum Sum Assured specified in the Schedule divided by the total number of the existing Policies the Further Participating Sum Assured so secured shall be a sum equal to the aggregate Further Participating Sum Assured so specified divided by the total number of the existing Policies and the amount of the further single premium paid under each of the existing Policies shall be a sum equal to the further aggregate single premium so specified divided by the total number of the existing Policies.

(Oxford Guide to Plain English, Martin Cutts, p.1)

 

まったくわからないですね。それでよいのです。わざとわからないように書いてあるのです。ほとんどのネイティブにとっても、これは読めないはずです。これが行政文体です。

法律文体と同様に、こうした行政文体には英米の人々から数多くの批判がなされています。なかには行政文書を役所の前で焼き捨てるという抗議活動をする人までいるようです。それほどまでに英米社会では行政文体の難解さが問題となっているということです。

当然のことながら、こうした文体は私たちが目指すべき方向と正反対にあるものです。決して真似をしてはいけません。

 

 

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<コラム>


プレイン・イングリッシュ

 

 

プレイン・イングリッシュ(Plain English)は20世紀後半から英米で盛り上がってきたある種の文体改革運動です。

プレイン・イングリッシュ運動のはじまりは英国のアーネスト・ガウワーがThe Complete Plain Wordsを出版した1950年代にさかのぼります。

1960年代になるとローン契約書の難解な契約文に対する批判が盛り上がり、シティバンクでは契約書文面を全面的に書き換える事態も起こりました。その後、消費者保護のために制定されたマグナソン・モス法で契約文書の曖昧表現が禁止されました。1978年にはカーター大統領が法規を平明な英語で書くことを要請した大統領命令に署名し、1998年にはクリントン大統領が公的文書でシンプルで短い文を使うことを指示したPlain Language in Government Writingというメモランダムを発表しました。クリントン大統領はまた1999年にも連邦文書を平明文体で書く要請を行なっています。

民間分野でも1998年に米国証券取引委員会(SEC)が証券関連文書をプレイン・イングリッシュで書くことを推奨したPlain English Handbookを公表しました。

これらの動きをみると、いま英米社会では英語のプレイン化が着実に進んでいるといってよいでしょう。近い将来には、あの難解な法律文体や行政文体がなくなる日がくるかもしれません。

 

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学術文体

 

学問に用いられる文体は“学術文体”(Academese)と呼ばれます。特徴は法律文体や行政文体とほぼ同じです。ようするに「悪文」です。

学術文体のさらなる特徴は仲間内だけの専門表現をきわめて頻繁に使うことです。仲間内だけで用いられる特殊な表現を使うことは仲間同士には時間と労力の節約になるのですが、外部の人間にはさっぱりわかりません。学術テキストが私たち一般人に読めない理由はここにあります。

学術文体はまさに悪文なのですが、学問に使われる文体ということで、一部の人々からは高い評価を受けています。そのため、悪文であるにもかかわず、それをお手本にしようとする人々が後をたちません。というよりも、その文体をマスターしなければ学者としてのキャリアにトラブルが生じるのです。まことに困ったことなのですが、それが現実です。私たちとしては、そうした現実を踏まえつつ、臨機応変に対応していくよりほかありません。もしあなたが学者としての道を進みたいのであれば、学術文体はかならずマスターしておかなければなりません。しかしそれ以外であれば、そうした悪文を真似て書く必要はまったくありません。

学術文体の例をひとつ挙げておきます。
  • In view of the extent of the downturn and the limits to the effectiveness of monetary policy, fiscal policy must play a crucial part in providing short-term stimulus to the global economy. Past experience suggests that fiscal policy is particularly effective in shortening the duration of recessions caused by financial crises (Chapter 3). However, the room to provide fiscal support will be limited if efforts erode credibility. Thus, governments are faced with a difficult balancing act, delivering short-term expansionary policies but also providing reassurance about medium-term prospects. Fiscal consolidation will be needed once a recovery has taken hold, and this can be facilitated by strong medium-term fiscal frameworks. However, consolidation should not be launched prematurely. While governments have acted to provide substantial stimulus in 2009, it is now apparent that the effort will need to be at least sustained, if not increased, in 2010, and countries with fiscal room should stand ready to introduce new stimulus measures as needed to support the recovery. As far as possible, this should be a joint effort, since part of the impact of an individual country’s measures will leak across borders, but brings benefits to the global economy.

(World Economic Outlook, April 2009, IMF)


<英文ライティング学習へのアドバイス>

 

最後に英文ライティングを学ぶうえでのアドバイスをいくつか述べておきましょう。

理論と手法を学ぶ

 

ライティングは技術であり、技術には理論と手法の裏づけがあります。まずそうしたライティング理論と手法をきっちりと学びましょう。自己流ではせっかくの努力が無駄になってしまいます。

英語ライティングの理論や手法については英米で数多くの参考書が出ています。そのうちのいくつかを以下にご紹介しておきますので、自分にあったものを使ってみてください。

Style—Lessons in Clarity and Grace, Joseph M. Williams, Longman

Writing Academic English, Alice Ashima, Ann Hugue, Pearson/Longman

The Longman Practical Stylist, Sheridan Baker, Longman

The Elements of Business Writing, Gary Blake & Robert W. Bly, Longman

The Elements of Technical Writing, Gary Blake & Robert W. Bly, Longman

Painless Writing, Jeffrey Strausser, Barron’s

The Plain English Approach to Business Writing, Edward P. Bailey, Jr., Oxford University Press

Legal Writing in Plain English, Bryan A. Garner, The University of Chicago Press

「型」を学ぶ

 

何を習得するうえでも最初に学ぶべきは「型」です。英語ライティングにおいてもまずは型を身につけましょう。そして学ぶべき型の代表がアカデミックライティングです。もっとも一般的で応用範囲が広いからです。そのほかにも英文ライティングにはいくつかの型がありますので(たとえばレター)、それらもできれば学んだほうがよいでしょう。そうやって一般の型を学んだのち、自分の型をつくっていけばよいのです。

お手本を真似る

 

もうひとつ大事なことは、よい「お手本」を見つけてそれを徹底的に真似ることです。「まなぶ」は「まねぶ」です。

よいお手本の基準の第一は自分がそれを好きなこと。自分が気に入らなければ、いくら世間でよいものだといわれていても、お手本には向きません。ただし自分が気に入っている文章であっても他の人から低い評価しかなされていないものも、やはりお手本には向きません。自分の書いた文章は自分のものであると同時に、それを読んでくれる読者のものでもあるからです。

たくさん書く

 

大事なことはとにかくたくさん書くことです。たくさん書かなければ英文ライティングは決して上達しません。とりあえず1000ページ書くことを目指しましょう。

もし書くことが思いつかなければ、他人の書いた文章を英語にするのもよいでしょう。翻訳ではありません。他人のアイデアを借りて、それを自分の言葉で表現するのです。

パラフレージングする

 

ひとつの表現の背後にはさまざまな別の表現が隠れています。そうした別の表現をできるかぎり数多く引き出してやりましょう。そうしたパラフレージングの繰り返しが英語表現力を大きく向上させてくれます。

 

誰かに読んでもらう

 

自分が書いた英文を誰かに読んでもらいコメントをしてもらいましょう。英語ネイティブである必要はなく英語のわかるひとなら誰でもOKです。私たちの目標は世界中の誰にもわかりやすい日本人として最良の英語を書けるようになることなのですから。

専門家のアドバイスをもらう

 

まわりに英語ライティングの専門家がいるのなら自分の書いた英文をみてもらって具体的なアドバイスをもらいましょう。ただし相手はライティングの専門家でなければなりません。ライティングは技術ですからその技術に精通しているかどうかがポイントなのです。

さあこれで解説はおわりです。あとは実践のみ。あせることなく、しかしたゆむことなく、英文を書いていきましょう。

 

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