英語発音の基礎の基礎

2011年9月14日

(これは私のつくった講座テキストである『英語発音の基礎の基礎』からの抜粋です。ワード原稿からの転載のためにレイアウトの乱れなどが数多くみられることをご容赦ください。完全版をご覧になりたい方はJEIアーカイブからPDFファイルをダウンロードしてください。)

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英語発音は頭で理解して体で覚えましょう

 

英語を英語らしく発音してみたい。英語を学んでいるひとなら誰でも一度は思うことですね。

でも実際にはなかなかそうはいきません。ネイティブの先生に教えてもらっても、オーディオ教材を一生懸命マネしてみても、カタカナ発音から抜け出すことは本当に至難の業です。現実は厳しいのです。

いったいなにが悪いのでしょうか。まだまだ努力が足りないのでしょうか。それとも私たち日本人には外国語習得の才能が欠けているのでしょうか。いえいえ、そうではありません。

勉強の仕方が悪いのです。英語と日本語の音に関する正しい知識を持たず、適切なトレーニング方法も知らず、ただただやみくもに練習をしても、英語の発音は決してマスターできません。

まず、英語と日本語を音声構造についてしっかりと理解しましょう。それから、それにあわせた正しい方法で英語発音の練習を重ねましょう。そうすれば、英語を英語らしく発音することが必ずできるようになります。頭で理解して体で覚える――これこそが英語発音マスターへの最短ルートなのです。

ではスタートです。マジメに、でも楽しく勉強をすすめていきましょう。

 

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英語発音学習の第一は英語の「音節感覚」を身につけること

 

英語の発音の話をすると、「日本人にはrとlの区別がつけにくい」とか「thの音は舌を歯のあいだにはさむ」といった、ひとつひとつの音の違いのことがすぐに話題になってしまいがちです。

でも、じつはこんなことは日本人の英語発音学習にとってそれほど重要なことではありません。日本人の英語発音学習にとってこうしたひとつひとつの音よりも、はるかに重要なことがほかにあります。

それが英語の「音節感覚」です。英語の音節感覚をしっかりと持っていないから、持っていないがゆえに英語の音を日本語の音節感覚で聞きとってしまうから、日本人には英語が英語として聞こえないのです。

したがって私たち日本人が英語発音を学ぶ際に最初にしなければならないことは、英語の音節と日本語の音節について正しく理解し、そのうえで、音節感覚を養うためのトレーニングを積み重ねることです。lとrの音の違いやthの音の出し方といったひとつひとつの音のトレーニングは、そうした英語の音節感覚がある程度きっちりと身についた後におこなうべきものです。

では「音節」とはそもそもいったいどのようなものなのでしょうか。それを次にご説明しましょう。

 

音節とは

 

「音節」という言葉をはじめて聞いた人もいるかもしれません。英語ではsyllableといいます。音節というのは、そのコトバを母語としている人が聞いて、ひとつの音だと感じる単位のことです。日本語でいうと「あいうえお、かきくけこ、ぱぴぷぺぽ、りゃりゅりょ」などが音節です 。

日本語の音節の数は100ちょっとです。下図がその一覧表です。

 



 

音節の数は言語によって大きく違います。たとえば中国語の音節の数は400個ちょっとです 。おとなりの韓国語は約2000個の音節を持っています。世界の言語をみてみると1000とか2000とかの音節を持っている言語が多いようです。日本語は世界のなかでも音節数がきわめて少ない言語のほうです。ちなみに世界でいちばん音節数の少ない言語はハワイ語で、35個ぐらいだといわれています。

となると英語の音節の数も知りたくなるのが当然ですが、これがよくわかっていません。日本人だけでなくアメリカ人やイギリス人もよく知らないのです。学者たちは1000とか2000とか1万とかいろいろといっています。

英語を話す人々も私たちとおなじ人間ですから数万もの音節を聞き分けることはできないはずです。おそらく実際には数千個の音節を聞き分けているのではないでしょうか。それでも日本語の数十倍! つまり日本人の英語の聞き取りや発音のセンサーは英語人の数十分の一程度なのです。日本人が英語の聞き取りや発音が下手な一番の理由は、この日本語と英語の音節数の大きな格差にあります。ですから私たち日本人が英語をきちんと聞いたり話したりするには、この聞き取りのセンサーの精度を英語人のレベルにまで上げるトレーニングが必要となります。心配ありません。同じ人間ですから、ちゃんとしたトレーニングをすれば私たち日本人の聞き取りや発音のセンサーの精度もぐんと向上します。そのトレーニングをこれから一緒にやっていきましょう。

 

日英音節のかたち――CVとCVC

 

なぜ日本語と英語では音節の数がこれほどまでに違うのでしょうか。一番の理由は日本語と英語とで「音節のかたち」そのものが違うからです。具体的にみてみましょう。

音節は「母音」と「子音」という性質の異なる2つの「音素」で構成されています。英語で母音はVowel、子音はConsonantなので、それぞれ「V」「C」と呼ぶことにしましょう。

 

日本語の音節のかたち

 

まず日本語の音節です。日本語の音節の大きな特徴は、母音だけの「V」と、母音の前に子音がひとつだけついた「CV」という、2つのかたちしか存在しないということです。「あいうえお」がVのかたち、「かきくけこ、さしすせそ、たちつてと」がCVのかたちです。日本語ではそれ以外の音節のかたちが現れることはありません。

当たり前じゃないかと思われる方もいらっしゃるかも知れません。けれでも、これがちっとも当たり前じゃないんです。世界の言語をみてみると、日本語のようにVとCVというふたつのかたちしか持たない言語はそれほど一般的ではありません。多く言語はもっとさまざまな音節のかたちを持っています。たとえば中国語や韓国語はVやCVにくわえて、CVCという母音の後ろにも子音がつく音節のかたちを持っています。だから日本語に比べてずいぶんと音節の数が多くなるのです(母音や子音の数が日本語より多いという点も挙げられます)。

 

英語の音節のかたち

 

では英語の音節のかたちはどうなっているのでしょうか。これが日本語とはまったく正反対といってよいのです。
V、CVだけという日本語の音節のシンプルさとはまったく対照的に、英語の音節はV、CV、CCV、CCCV、VC、VCC、VCCC、VCCCC、CVC、CVCC、CVCCC、CVCCCC、CCVC、CCVCC、CCVCCC、CCVCCCC、CCCVC、CCCVCC、CCCVCCC、CCCVCCCCといった多種多様なかたちをとります。英語はきわめて複雑な音節のかたちを持って言語なのです。このうちのいくつかを例として挙げておきましょう。

Vの代表例はa[éi]でしょう。CVの代表例はb[bíw]。それからf[éf]やs[és]はVCの代表例、そしてx[éks] はVCCの代表例です。

このほか、CCVCの例としてはspeak [spíwk]、drive [dráiv]、fruit [frúwt]、black[blJk]などが挙げられます。CCCVCの例ではstrike [stráik]、splash [splJP]、scratch [skrJtP]などを挙げておきます。

上に挙げた母音の前に子音がつく音節(CV, CCV, CCCV)もやっかいなことはやっかいなのですが、日本人にとってもっともっとやっかいなのは、母音のあとに子音がつく音節(VC, VCC, VCCC, VCCCC)のほうです。なにしろ日本語の音節では母音のあとに子音がつくことは決してありません。したがって日本語の世界だけで生きているかぎり、VとCの音のつらなりをひとつの音節として認識することは決して起こりえません。

ところが英語の世界ではこのVC系の音節がいたるところに存在しているのです。前に挙げたf[éf]、s[és]、x[éks]のほか、VCCCだとtext [tékst]、glimpse [glímps]、prompt [prNmpt|prQmpt]、VCCCCだとtwelfths [twélfjs]、glimpsed [glímpst]などを例として挙げておきましょう。

このような日本語には決して存在しないかたちの英語の音節を英語の音節としてそのままに認識できるかどうかが、日本人の英語発音学習にとっての最大の難所のひとつです。

 

英語の音節を日本語の音節に無意識に置き換えてしまう

 

しかしこの難所を乗り越えることは、私たち日本人にとって決して簡単なことではありません。日本語の音節にはもともとCCといった子音の連続が存在せず、ましてやVCといった母音の後ろに子音がつくかたちなどひとかけらもありません。もともとないのですから、認識しようにもしようがないのです。
ではどうするかといえば、ふつうは英語の音節を日本語の音節のかたちに強引に置き換えて認識してしまうのです。

fromという語を考えてみましょう。発音記号で書くと[frCm]。CCVCのかたちですね。でも日本語にはCCの子音連続もVCの母音子音連続ももともと存在しません。そこで、おそらく無意識のうちにですが、これを慣れ親しんだ子音母音連続つまりCVCVCVのかたちである[furomu]に置き換えてしまうのです。すなわち

 

[frCm]→[furomu]→「フロム」

 

と聞いてしまいます。

音節の数からみると3倍に増えてしまうのです。その分、日本語の「フロム」は英語のfromよりも発音するのに時間がかかります。

皆さんのなかには英語がとても早口に聞こえるという人もいらっしゃると思います。その大きな理由のひとつが、この音節数の違いなのです。英語でfromと聞いたときに日本語の音節の「フロム」を心に思い浮かべていると、そのあいだに英語のほうはどんどんと先へと進んでしまいます。だから追いつけずに速く聞こえるのです。英語のfromはfromという一音節のままで聞き取り、発音しなければなりません。

そしてこの[frCm]→[furomu]→「フロム」と同じことが、日本人が英語を聞いたり話したりするときには、あらゆる場面において生じています。ここできわめて大事なことは、それが無意識のうちに生じているということです。決して意識的に置き換えようとして置き換えているのではありません。しかし現実には、私たちはfromという音を[frCm]→[furomu]→「フロム」としてオートマチックに認識しているのです。

これこそが「カタカナ英語」の正体であり、こうした英語音節から日本語音節への無意識下での置き換えを意識的にストップするための知識とトレーニング方法を提供することが、この講座の大きな目標のひとつです。

 

英語の音節は隣同士がぺったりとくっついてしまう

 

英語の発音学習には、ほかにも大きな難所があります。そのひとつが「音節の連結」です。

それぞれにきっちりと独立している日本語の音節とはちがって、英語の音節は隣の音節とぺったりとくっついてしまいます。

たとえばcome inという英語をカタカナ英語にするとふつうは「カムイン」ですね。でも「カミン」のほうが実際の英語発音には近いのです。come inを発音記号でみてみると[kCmin]。ほら「カムイン」でなく「カミン」でしょう。
同じようにopen it [óup¹nit]は「オープンイット」ではなく「オウプニト」、in an hour[in¹náu¹r]は「インアンアウワー」ではなく「イナナウウァ」のほうが実際の英語の発音に近くなります。

ですから発音のことだけを考えれば、英語のテキストは単語と単語のあいだのスペースは空けないほうが合理的です。come inでなくcom(e)in(このeは「黙字」といって無発音の文字です)、open itでなくop(e)nit、in an hourでなくinan(h)ourと書くべきです(come in→com(e)in、open it→op(e)nit、in an hour→inan(h)our)。けれども実際の英語のテキストでは単語間にスペースが入っていますから、どうしても無意識のうちに「オープン イット」や「イン アン アウワー」を思い浮かべてしまいがちです。ここが日本人の英語発音学習での大きな難点のひとつです。

ではなぜ日本語では隣同士の音節がくっつかず、英語では隣同士の音節がくっついてしまうのでしょうか。これには日英の音節構造が違いが関係しています。

日本語の音節のようにV系とCV系だけなら、それがいくら続いてもCVVCVCV…というかたちにすぎません。この場合には、CV, V, CV, CV…と明確に分けて認識することはいつでも可能です(CVVCVCV → CV, V, CV, CV)。ところが、CVC系も含むさまざまな音節を持つ英語では、たとえばCVCCCVCCCVCC…などと続けた場合には、どこからどこまでが一音節なのかが、うまく区別できせん(CVCCCVCCCVCC → CV, CCCVC, CCVC,C、またはCVCC, CVCC, CVCC、またはCVCCC, VCC, CVCC、または…)。このために英語では隣同士の音節をどうしてもくっつけて認識してしまうのです。

 

英語の音は変わったりなくなったりする

 

隣の音節どうしがくっついてしまうほかに、英語の音節には驚くべきことがもうひとつ起こります。音が変わったりなくなったりするのです。

一例として、andをとりあげてみることにしましょう。

ほとんどの日本人は、andの発音は「アンド」([ænd])だと思っていますよね。たしかにandの“正規”(強系)発音は[ænd]だとして間違いではありません。間違いではありませんが、しかしandが「アンド」([ænd])と発音されることなど実際にはほとんどないのです。

では実際にはandがどのように発音されるかというと、[¹nd]、[¹n](「アン」)、[nd](「ンド」)、[([t,d,s,z]の後で)n、[([p, b]の後で)m]、[([k, g]の後で)v](「ン」)などなどです。

こうしたandの発音のかたちは「弱系」発音と呼ばれています。対して[ænd]は「強系」発音と呼ばれます。つまり英語の音節の発音には「強系」「弱系」の2つのタイプがあり、「弱系」のなかにもさまざまなバリエーションがあるということです。そして「弱系」の究極のかたちがゼロ発音すなわち「なくなってしまう」です。

具体例としてrock and rollという表現をみてみましょう。この3つの単語をひとつずつしっかりと区切って発音すると、[rNk, ænd, róul](ロック アンド ロウル)になります。でも実際にこんなふうに発音されることなど、よほど特殊なケースでなければ考えられません。ふつうは、andの発音が弱系となって[rNk¹ndróul]→[rNk¹nróul]→[rNkvróul]という道筋をたどります。そうです、これが「ロックンロール」です(なぜか「ロックンロウル」じゃないんですが)。そしてこれと同じことが、bread and butter [brédnbCt¹r]、hub and spoke[hCbmspóuk]、hide and seek [háidnsíwk]などなど、英語のさまざまな場面で起こっているのです。

それにしても、場面場面によって音がどんどんと変わっていってしまうなんて、英語という言語は、音に対してなんといいかげんなのでしょうか。音声的にみてここまでいいかげんな言語は世界のなかでも珍しいのです。いっぽう日本語は音に対してはとてもきちょうめんな言語です。ひとつひとつの音が大きく変わってしまうということはほとんどありません。そしてこのきちょうめんさが逆に災いして、私たち日本人はどんどんと変化する英語の音をつかまえるのがたいへんに苦手なのです。

英語が音に対してなぜいいかげんなのか、いっぽう日本語が音に対してなぜきちょうめんなのかといえば、それには日英両言語の持つリズム構造の本質的な違いがからんでいます。この点については、このあとにご説明することにしましょう。

 

 

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英語発音学習の第二は英語の「リズム感覚」を身につけること

 

ここまで英語の音そのものについての学習をしてきました。ところで英語の発音学習にとって音と同じくらいに大事なものがもうひとつあります。それがリズムです。

「リズム」とはパターンの繰り返しのこと。なにかのパターンが繰り返されると、私たちはそこにリズムを感じます。四季のめぐり、昼夜の繰り返し、寄せては返す波の音、時計のチクタク、心臓の拍動――私たちのまわりにはさまざまなリズムが満ちあふれています。

 

英語のリズムは一音節でなく一小節が単位

 

まず日本語のリズムの特徴は「すべての音節の長さが一定」だということです。擬音的にいえば「タタタタタタタ」というリズム方式です。

いっぽう英語のリズムの特徴は、音楽のように一小節にあたる時間にいくつもの音節(音符)が組み込まれるということです。そして楽譜と同様に、音節(音符)の数は一定ではありません。擬音的にいえば「タンタタタン」「タンタタタタン」「タタンタタタタタ」などといったさまざまなパターンです。

たとえば4分の3拍子だとしますと、一小節のなかに四分音符ばかりが3つのときもあれば(タンタンタン)、四分音符が2つで八分音符が2つ(タンタンタタ)、あるいは四分音符が1つで八分音符が4つ(タンタタタタ)、あるいは四分音符が2つで16分音符が4つ(タンタタタタタタン)などといったさまざまなバリエーションがあるということです。そして一小節にどれだけの数の音符(音節)があったとしても、一小節の長さはつねに一定なのです。
実際に英語と音符をつかって説明してみましょう。以下は、そのなかに含まれている音節の数はそれぞれにまったく違うのですが、それを発声する時間の長さは、すべてほぼ同じです。

このように、DogsとBonesとのあいだにどれだけの音がはいろうとも、その全体の長さはつねに一定なのです。
DogsとBonesのあいだに一音節(eat)しか入らないときには「タン、タンタ、ン」という単調なリズムでよいのですが、たとえばshould eatのように2つの音節が入るときには、「タン、タタ、タン」と真ん中の2つの音を短く発音しなければなりません。さらにshould have eatenように3つの音節が入ると「タン、タタタ、タン」と真ん中に3つの音を入れなくてはなりません。そんなときには通常、その3つの音がshould’ve eatenというように2つの音節へと短縮されます。It isがIt’s、That isがThat’sになるようなものですね。人間は楽をしたがる動物ですから、実際の会話の発音では、このような音の短縮がしばしば利用されています。

一音節の長さをつねに一定に保つために、一つ一つの音節の発音を短くしたり、変えてしまったりするという英語発音の特徴は、私たち日本人にとって、まさに驚くべきことです。すべての音節の長さが必ず一定である日本語の世界では、こうしたことは、絶対に起こらないからです。

ですから私たち日本人はどうしても英語の一つ一つの音節を同じ長さで発音してしまいがちです。そのためDogs eat bones.とDogs should eat bones.とDogs should have eaten bones.はすべて長さが大きく違ってしまいます。

こうした日本人としてクセをなくして、Dogsとbonesのあいだの長さをつねに一定にするように努めれば、私たちの英語がぐっと英語らしくなります。

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